<社説>名護市に再編交付金 札束で頬たたくのやめよ


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 米軍再編事業の進展に応じて支給される米軍再編交付金について、沖縄防衛局は名護市に対する交付を8年ぶりに再開することを決めた。すでに年度末だが、2017年度分から約15億円を交付する。

 渡具知武豊市長が米軍普天間飛行場の移設に伴う名護市辺野古への新基地建設について「法令にのっとって対応する」と明言したためだ。渡具知氏は移設について「容認でも反対でもない」として態度を明確にしていない。
 しかし防衛局は交付に必要な「再編事業への理解と協力」が得られたと判断し、交付を決めた。これでは移設容認を促すための懐柔交付金ではないか。
 再編交付金は在日米軍再編に伴い、基地負担が増える市町村に交付される。進展状況などによって交付額が算定される。さらに交付には「再編事業への理解と協力」が必要とされている。
 このため移設反対を公約に掲げて当選した稲嶺進前市長時代は交付が止められた。「再編交付金の額を定めることが適当でないと認める特段の事情があるときは、当該再編関連特定周辺市町村の交付点数を減じ、または零(ゼロ)とすることができる」との施行規則に基づき、交付点数を「ゼロ」にしたからだ。
 再編交付金は米軍再編事業の進展に応じて支給されるものだ。稲嶺氏が市長時代から辺野古への新基地建設は強行され、工事は進められてきた。再編事業は進展していたはずだ。それなのに交付されなかったのは「再編事業への理解と協力」がなかったからということになる。
 稲嶺氏は市長時代に「再編交付金は名護市がお断りするといったことはない。ある日突然、交付ゼロの通知が来て止められた」と答弁している。
 つまり政府に尻尾を振って従順を誓う自治体には交付するが、言いなりにならずに異を唱える自治体には、たとえ再編事業が進んでも一銭も出さないという極めていびつな制度なのだ。
 政府はこれまで、新基地建設が進む名護市の辺野古、豊原、久志の3区に再編関連特別地域支援事業として補助金を交付している。移設に反対する稲嶺市政を通り越しての支出だ。地元住民を政府の政策になびかせようと誘導する地方分権に反する悪質な補助事業と言わざるを得ない。
 政府は名護市に対して、米軍再編交付金だけでなく、米軍再編に協力する市町村を対象にする再編推進事業補助金の交付も検討している。次々と露骨な懐柔策を打ち出していく方針のようだ。
 新基地建設をはじめとする米軍再編事業に対する県民の理解を得るために、政府は金をばらまくことしか方策を見いだせないのだろう。札束で頬をたたくのはやめるべきだ。沖縄の圧倒的多数の民意である辺野古移設反対の声に耳を傾けることが先決だ。