<社説>米、輸入制限発動 貿易戦争に勝者はいない


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 トランプ米政権は安全保障上の脅威を理由に、鉄鋼とアルミニウムに高関税を課す輸入制限を発動した。中国の知的財産権侵害を理由として中国製品に一律25%の関税を課す措置も決めた。

 標的とされた中国は反発し、米国製品に最大25%の関税を課す準備を進める。世界で1、2位の経済大国の争いは世界経済に悪影響を与えることが確実だ。
 世界貿易機関(WTO)のアゼベド事務局長は「(貿易戦争に)勝者はなく、世界の貿易体制の不安定化につながりかねない」と警鐘を鳴らしている。不毛な争いを避け、対話と協調によって解決策を模索すべきだ。
 鉄鋼、アルミの輸入制限は日本も対象となっている。二つの製品とも貿易量そのものは少ないが、米国向け製品がアジア市場に流れることによって、価格下落などの影響が出る恐れもある。
 既に日米をはじめ、株式市場は先行き不透明感を受け、世界規模で急落している。安定した資産である円に資金が流れ、円高も進行した。
 円高進行は輸出企業にとって業績押し下げに直結する。沖縄にとっても無関係ではない。県経済をけん引する観光は海外からの観光客の伸びが成長を支えている。円高による影響については「長期にわたれば若干影響はあるかもしれないが、消費意欲を損なうことはない」(平良朝敬沖縄観光コンベンションビューロー会長)、「海外から沖縄への観光客が減ることは予想される」(宮城弘岩沖縄物産企業連合会長)との見方がある。
 トランプ大統領の強硬姿勢の背景には、貿易赤字の削減だけではなく「米国第一主義」を前面に打ち出すことで貿易自由化に批判的な工業地帯の白人労働者の支持をつなぎ留める狙いもあるとされる。
 自らの支持基盤を維持するために世界経済を混乱に陥れるのであれば、経済大国の指導者としての適性に疑問符がつく。
 経済協力開発機構(OECD)の試算によれば、米中の関税上げで貿易コストが10%上昇した場合、世界の貿易量は6%減り、世界のGDPを1・4%押し下げるという。
 トランプ氏が迫る取引は世界経済を人質に、一国の利益を確保するようにしか見えない。猛反発する中国との争いに巻き込まれる他の国は迷惑だ。
 WTOは協定前文で「関税その他の貿易障害を実質的に軽減し、国際貿易関係における差別待遇を廃止する」ために締結されたとある。相互的かつ互恵的な取り決めであり、特定の国を利することなく世界全体で繁栄を享受するためのものだ。
 同盟関係にある日本は、米国の独善的な行動を止める役割が求められる。世界経済を支える自由貿易体制を維持するためには、対話と協調が原理原則だ。決してトランプ氏の取引に乗ってはならない。