森友学園問題を巡る決裁文書改ざんで、証人喚問に臨んだ佐川宣寿前国税庁長官は、安倍晋三首相や官邸側からの改ざんの指示を否定した。改ざんの経緯や動機、指示系統など核心部分は証言拒否を繰り返した。
疑惑は晴れるどころかさらに深まった。
議院証言法は刑事訴追の恐れがある場合、証言を拒否できる。だが56回にわたって証言を拒否するのは異常だ。佐川氏は「当時の担当局長として責任はひとえに私にあります」と頭を下げて謝罪した。それなら誠実に経緯を証言すべきだった。
証人喚問の限界を露呈した形だが、これで幕引きにするのは許されない。決裁文書を改ざんし、国会に提出した行為は、民主主義を根底から否定する。国家、国民への背信である。
ロッキード事件やリクルート事件のように国会内に調査特別委員会を設置して真相を徹底究明するよう求める。
佐川氏は国有地売却の経緯について「首相、夫人の影響があったとは考えていない」と主張した。ではなぜ決裁文書から安倍昭恵首相夫人の名前を削除したのか。そう問われても証言を拒んだ。
佐川氏の主張は首相答弁と矛盾している。安倍晋三首相は26日の参院予算委員会で、学園が建設を予定した小学校の名誉校長に昭恵氏が一時就任したことに関し「学園の信頼性を高める。妻もそのように理解していた」と述べた。昭恵氏が首相夫人の立場や影響力を意識して学園側に協力したことを認める内容だ。昭恵氏の証人喚問が必要だ。
公文書の改ざんの事実について認めたが「(官邸から)指示も協議も相談もない」とし、「理財局で行った」と語った。改ざん前の文書に記載されていた「本件の特殊性」は、官邸や政治家の関与の意味ではないと強調した。
ではなぜ改ざんしたのか。佐川氏は文書改ざんの経緯に関する証言を全て避けた。改ざんの経緯を明かさず、官邸の関与は明確に否定する。説明が不自然だ。
学園との交渉記録を破棄したとの昨年2月の国会答弁について「財務省の文書管理規則を理財局に確認した」と釈明した。「破棄」と「確認」は全く違う。国会で虚偽答弁をしたことになる。
証人喚問について、石破茂自民党元幹事長が「誰が、なぜというのが一切分からなかった」と語るなど与党内からも疑問の声が上がっている。
しかし政府、与党は「国会での解明は終わった」(自民党幹部)として、森友問題の幕引きを図ろうとしている。行政中枢が不正を犯しているというのに、国会は自浄作用が働かないのか。
安倍首相は「政府、国会それぞれの立場で全容を解明し、うみを出し切ることが重要だ」と述べたはずだ。最終責任は首相にある。