<社説>米軍訓練空域拡大 民間機を最優先すべきだ


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 民間機を閉め出して、米軍の訓練空域を設けることは断じて認められない。

 沖縄周辺で民間機の運航を制限して米軍が訓練する空域がこの2年間で大幅に広がっている。訓練空域面積は既存空域の合計と比べ、少なくとも6割程度広がった可能性がある。
 米軍が必要に応じて使う臨時訓練空域を新設する形で拡大している。しかも「臨時」とは名ばかりで、実態は常時提供状態である。
 航空関係者によると、臨時訓練空域はほぼ毎日「有効」として発令され、民間機の運航を規制している。だが「臨時」のため、米軍の訓練空域を示して県などに情報提供される地図には載っていない。
 国土交通省はこの臨時訓練空域を自衛隊用空域の名目で設定している。実態とかけ離れており、容認できない。
 政府は米軍厚木基地(神奈川)からの空母艦載機移転に伴い、2016年に米軍も使用する臨時訓練空域を岩国周辺で新設した際には山口県にこの計画を説明している。沖縄での新たな臨時訓練空域の設定は15年12月10日だが、沖縄県には説明していない。
 沖縄での米軍訓練空域の大幅な拡大を隠す悪質な意図が政府にあるとしか考えられない。極めて不誠実な対応であり、強く抗議する。
 米軍に「提供」されてもいない「臨時訓練空域」という法的な位置付けが曖昧な場所で、米軍が訓練することは日米地位協定上も問題があるとの指摘がある。臨時訓練空域設定を公にしないのは、政府も法的に問題があると認識しているからだと疑わざるを得ない。
 訓練空域拡大による民間機の運航への影響は計り知れない。乗客の時間的な損失も見過ごせない。那覇空港から久米島空港を直線で結ぶと、その進路を米軍訓練空域が遮る。直線で飛行すれば16分だが、訓練空域を避けねばならないため25分かかる。
 那覇-上海便も訓練空域があり、最短距離を飛べない。那覇-福岡と那覇-上海はほぼ等距離だが、福岡へは約1時間半、上海へは約2時間と30分もの違いがある。
 政府の米軍優先姿勢は、日米合意さえも形骸化させている。日米両政府は上空5千フィート以上を飛ぶことを条件に、那覇到着の民間機に伊江島訓練空域の運航を認めることで1985年に合意した。だが、在沖米海兵隊は訓練空域が「使用中」の場合、運航は認めないとしている。
 ドイツでは、米軍はドイツ航空管制(DFS)に訓練空域の使用を申請し、DFSは「民間航空を第一に考えて」調整する。これがあるべき形である。米軍の訓練を最優先させ、民間機が迂回(うかい)する沖縄周辺の状況は異常である。
 沖縄の米軍基地負担軽減に逆行する臨時訓練空域を全廃し、既存の訓練空域も民間機の運航を最優先に考えて大幅に見直すべきだ。