<社説>陸自イラク日報存在 事実の隠蔽を強く疑う


この記事を書いた人 琉球新報社

 「存在しない」は「存在する」ことを意味するのではないか。そう思わざるを得ないほど、政府に対する国民の信頼は失墜している。

 小野寺五典防衛相は陸上自衛隊のイラク派遣に関し、政府が野党議員の資料要求に「存在しない」としてきた部隊の日報が見つかったと発表した。あるものを「ない」としてきたことは重大な問題だ。併せて、日報を確認してから小野寺防衛相に報告するまで2カ月半以上かかったことも看過できない。
 陸自研究本部が陸幕総務課に日報の存在を報告したのは、ことし1月12日。小野寺防衛相に報告があったのは3月31日である。陸自や統幕は「分量が多く、内容の確認作業に時間がかかった」としているが、報告が遅れた理由にはならない。
 2015年に全文が公開された「イラク復興支援活動行動史」は陸自部隊の宿営地にロケット弾が撃ち込まれ、「一つ間違えば甚大な被害に結び付いた可能性があった」と記載している。
 日報は行動史のベースとなり、より生々しい様子が記載されている可能性がある。PKO参加5原則の一つ「現地での停戦合意の成立」に抵触する事実を隠蔽(いんぺい)するため、日報は「存在しない」と虚偽報告したことを強く疑う。
 南スーダン国連平和維持活動(PKO)の日報に関しても「陸自部分は廃棄済み」と説明しながら16年12月、統合幕僚幹部で保管しているのが見つかり、陸自でも保管の事実が発覚した。防衛省は特別防衛監察を実施し、陸自が隠蔽を主導し、事務方が追認したとの構図を示した。
 南スーダンPKO日報問題でも問われた文民統制(シビリアンコントロール)がいまだ十分機能していないのではないか。安倍政権は危機感を持つべきである。
 公文書管理を巡っては、学校法人「森友学園」への国有地売却問題で財務省が廃棄したとしていた関連文書を保管していたことが明らかになり、決裁文書改ざんも発覚したばかりである。
 厚生労働省でも、働き方改革を巡る国会議論の過程で「なくなった」としていた労働時間などの調査データ原票が厚労省地下で見つかっている。学校法人「加計学園」の獣医学部新設を巡り「総理のご意向」などと記した文書を、文部科学省は当初「存在を確認できない」と説明していたが、再調査で存在が明らかになっている。
 「見つからなかった」「存在しない」としてきた文書がこれだけ出てくるのである。国民の「知る権利」の軽視は許されない。公文書の管理の問題に矮小(わいしょう)化してはならない。安倍政権に都合の悪いことを政府ぐるみで隠蔽した可能性さえ疑われる。
 行政全体の信頼を揺るがす事態である。安倍晋三首相は行政の最高責任者として一連の問題の責任を取るべきだ。