<社説>憲法施行71年 国民は理念支持している


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 日本国憲法の施行から71年を迎えた。国民が戦禍に巻き込まれることなく、一定の豊かさを享受できた戦後社会の基底に、平和と民主主義、基本的人権の尊重をうたう日本国憲法が存在していることを改めて確認したい。

 1950年代半ばから自主憲法制定の主張が強まり、改憲・護憲は政治上の対立軸となった。それにもかかわらず、憲法の条文は一言一句変わることはなかった。憲法の理念を支持する国民は改憲を許さなかった。
 2020年の改正憲法施行を目指す安倍晋三首相や自民党はこの事実を軽んじてはならない。
 自民党憲法改正推進本部は3月、9条への自衛隊明記、教育充実、緊急事態条項の新設、参議院「合区」廃止の4項目で条文案をまとめた。安倍首相はその後の党大会で「憲法にしっかり自衛隊を明記し、違憲論争に終止符を打とう」と呼び掛けた。
 しかし、安倍首相や自民党に対する民意は厳しい。共同通信が実施した憲法改正に関する世論調査では、自民党の改憲4項目の全てで「反対」や「不要」の否定的意見が上回った。安倍首相の下での改憲には61%が反対し、賛成は38%にとどまった。
 国民の多くは憲法改正の必要性を感じてはいない。逆に改憲を声高に訴える安倍首相に疑念を抱いている。現代社会に適合しない時代遅れの憲法という批判もあるが、むしろ安倍政権の方が憲法の意義を理解する国民から乖離(かいり)しているのだ。そのことを安倍首相は直視すべきである。
 自民党の条文案で最も問題視されているのが9条である。戦力不保持と交戦権の否認を定めた2項を維持したまま、別立ての9条の2を新設して自衛隊の存在を明記するというものだ。自衛隊法より上位にある憲法への自衛隊明記で、文民統制上の問題が生じる可能性は否定できない。
 「必要最小限度の実力組織」という文言が削られ、「必要な自衛の措置」が盛り込まれたことも問題だ。「必要な自衛」の定義は曖昧だ。集団的自衛権の絡みで日本が意図しない国際紛争に巻き込まれる恐れはないのか。このような9条改正は平和憲法の理念と相いれない。
 南北首脳会談は朝鮮半島の非核化に向けて重大な一歩を記した。日本を取り巻く安全保障環境は大きく変わる可能性がある。日本は日米同盟を基軸とした安保・外交政策の見直しを迫られている。憲法改正を急ぐときではない。
 沖縄は72年の日本復帰で憲法の適用を受け、今年で47年目になる。米軍基地から派生する人権侵害に見られるように、沖縄は「憲法不適用」の状態が続いている。米軍の圧政から脱し、基本的人権の尊重を保障する憲法への復帰を目指した県民の願いは達成されていない。
 沖縄の願いは憲法改正ではない。憲法の完全適用だ。