米国のトランプ大統領がまた、国際協調を無視する愚かな決定をした。イラン核合意からの離脱表明だ。併せて「最高レベルの経済制裁」も科すと宣言した。
イランの核開発を抑制する多国間合意を崩すのは、中東情勢を不安定化させ、ひいてはこの地域の核開発競争という危機を招きかねない。極めて無責任な決定であり、強く批判する。
核合意は、オバマ政権時代に米英仏独中ロの6カ国とイランが2015年に締結した。軍事転用可能なウランの濃縮をイランが10~15年間で縮小するよう大幅に規制した。見返りに、米欧などは経済制裁を解除した。国連安保理も合意を承認している。
確かに、合意は濃縮活動を全て禁止してはおらず、欠陥は残る。とは言え、核開発阻止という究極の目標に向けて一歩を踏み出し、一定の成果を果たしてきたのも事実だ。
ウラン濃縮に使う遠心分離機は、合意前の約1万9千台が5060台に減った。濃縮ウランも合意前の約10トンが300キロまで削減された。
国際原子力機関(IAEA)の査察活動も合意前のほぼ倍に達し、厳重な監視体制が敷かれてきた。
米の離脱によってイランが査察受け入れを後退させてしまうと、国際的な核不拡散体制に深刻な打撃を与える。
トランプ氏に離脱しないよう説得していた英仏独3カ国は「遺憾の意と懸念」を表明した。今後も合意履行を続ける方針だ。当然の判断だ。
肝心のイランは激しく反発し、ウラン濃縮再開もあり得ると警告した。だが当面は合意にとどまる見通しで、15日に欧州と存続について改めて協議する。イランの冷静な対応にひとまず安堵(あんど)するものの、予断は許さない。
米による制裁で、イラン国内の経済が悪化すれば、反米保守強硬派が台頭する恐れも出てくる。強硬派が政権を握れば核開発再開も考えられ、対立するサウジアラビアの核保有も懸念される。中東を危険地帯にしてはならない。
トランプ氏は国際秩序を保つ代替策もないまま、核合意を放棄した。11月の中間選挙を控え、支持層にアピールするという内政上の理由が本心ではないか。あまりに視野が狭く短絡的すぎる。
温暖化防止のパリ協定離脱と同様に、オバマ前大統領の功績を全否定するのが目的化してはいまいか。
6月12日に首脳会談を行う北朝鮮への影響も危惧される。重要な国際的合意もすぐほごにする国家だと不信感をもたれかねない。
長期展望も具体的戦略もない大統領を抱える米国は不幸としか言いようがない。
英仏独をはじめ国際社会はイランを核合意から離脱させないための外交努力を重ねてほしい。日本も「同盟国」を名乗るのなら、米国に追従せず、合意に復帰するよう粘り強く説得と忠告をすべきだ。