持続可能な自然保護の在り方とは何かという根本的な問いを突き付けられた。
国連教育科学文化機関(ユネスコ)の諮問機関、国際自然保護連合(IUCN)が、「奄美大島、徳之島、沖縄島北部および西表島」の世界自然遺産登録に関し「登録延期」と勧告した主な理由が、米軍北部訓練場の存在であることが明らかになった。
政府が北部訓練場や返還跡地を推薦書に明記しなかったことで、書類上の不備を指摘された。
米軍基地は日米地位協定により日本の管理権が及ばないから、北部訓練場に関する情報を書かないという環境省の理屈は、国際的な自然保護の基準からすれば通用しないということだ。
そもそも世界遺産とは、一国にとどまらず人類全体にとって、貴重なかけがえのない財産である。その価値ある財産が一部でも損壊や滅失によって失われることになれば、世界のすべての人々にとって遺産が損なわれることとなる。そこで、増え続ける脅威やさまざまな危機から保護するため特別な対策を施すのである。
IUCNは「推薦地は他の地域と比較して圧倒的に多数の希少種、固有種を有し、唯一無二の価値を誇ることが証明された」と評価している。
しかし、今回日本が推薦した4島のうち、沖縄島北部に隣接する北部訓練場跡地が推薦地に組み込まれていない。IUCNは組み込まれない限り「完全性は担保できない」と指摘した。
政府は2016年12月に過半が返還された北部訓練場跡地の約3600ヘクタールを推薦地に組み込む意向だ。しかし、推薦書を提出する時点で間に合わなかった。IUCNは正式な推薦書に書かれていない以上、審査の対象にならないとして、4段階ある勧告のうち下から2番目の「登録延期」の判断を下した。
ただ返還跡地から米軍由来とみられる廃棄物がみつかっており、跡地登録に課題が残る。
勧告のもう一つのポイントは、返還されていない残り3500ヘクタールの訓練場は「米軍の管理下だが、景観の連続性や希少種の生息地という観点で緩衝地帯の役割を果たしている」と評価された点だ。
世界自然遺産として保護するためには、未返還の訓練場が緩衝地帯にふさわしい環境でなければならない。
訓練場は16年に6カ所のヘリパッド(ヘリコプター発着場)が新たに建設された。垂直離着陸輸送機MV22オスプレイなどが頻繁に離着陸を繰り返し、生態系に悪影響を及ぼしている。緩衝地帯としての要件を満たすには、オスプレイの訓練は廃止しかない。
自然保護に関する国際的な勧告を重く受け止め、政府は責任を持って米国と協議する必要がある。米軍の協力が得られなければ、北部訓練場の全面返還を求めるしかない。