<社説>カジノ法案参院へ 地域振興につながらない


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 カジノを含む統合型リゾート施設(IR)整備法案は自民、公明両党と日本維新の会などの賛成多数で衆院を通過し、審議は参院に移る。

 安倍政権が成長戦略に掲げ、一部の自治体が誘致に動くカジノだが、真の地域振興につながるのだろうか。
 カジノのビジネスモデルは単純に言えば、賭博場を設けて客を賭け事に興じさせ、手数料を取って収益とする。客が多く入り、賭け金を積むほどもうかる仕組みである。
 ラスベガスを典型とする統合型リゾートは展示会や国際会議で人を集め、宿泊費を抑えるなどして長く滞在させてカジノへ誘導する。日本の案と同様に国内客などから入場料を取る韓国やシンガポールではカジノ内の飲食を無料または安価にして集客する。海外のカジノ事業者は誘客戦術でしのぎを削る。
 これを日本国内に置き換えればどうなるだろうか。IRの展示場やホテルがカジノへの誘客のために価格を安く設定すれば、周辺に波及し、廉売競争が始まるかもしれない。カジノが飲食を無料化すれば、客は周辺の飲食店から流れるだろう。いずれにしても、地域経済に悪影響を与えることは否めない。
 安倍晋三首相はIRについて「世界中から観光客を集める滞在型観光を実現する」と述べた。しかし、IR誘致に積極的な大阪府や北海道などの自治体は7割5分から9割を日本人客が占めると試算する。外国人観光客がそれほど伸びないとなれば、成長戦略にはつながらない。2017年の訪日外国人観光客は推計2869万人で、6年連続で過去最多を更新した。IRがなくとも、日本観光は伸びている。
 加えてカジノ事業者に利用者への貸し付けを認めている点も問題だ。「負けが込んだ」利用者が金を借りてさらに深みにはまる。ギャンブル依存症を助長しかねない。刑法が禁じる賭博を合法化するIR法案であるが、衆院では依存症対策一つでも十分な審議がなかった。
 日本のIR導入には外資系企業が熱い視線を注ぐ。カジノの運営ノウハウを持つ外資系企業にとって、日本は未開拓市場だ。県内でも昨年、中国のカジノ企業がシンポジウムを開くなど動きを活発化させている。
 国はカジノ収益の30%相当を納付金として徴収し、入場料収入と合わせて立地自治体と折半することで税収増をうたう。
 しかしギャンブル依存症の増加やマネーロンダリング(資金洗浄)の恐れ、暴力団の関与、治安悪化、青少年への悪影響など数々の課題への具体的対策は示されないままだ。地域経済へのメリットが見えない中で、弊害だけを背負わされる懸念がある。
 このままでは民衰え、益は海外に流れ、地域振興につながらない。良識の府は悪法を成立させるべきではない。