<社説>辺野古撤回で聴聞 移設の前提は崩れている


社会
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 名護市辺野古の新基地建設を巡り、県が辺野古の海の埋め立て承認の撤回に向け、工事主体である沖縄防衛局の意見や反論を聞き取る「聴聞」が非公開で行われた。防衛局側は再び反論の機会を設けるよう求めたが、県は聴聞をこの日で終えた。

 埋め立て承認撤回は故翁長雄志知事が「自分でしっかりやりたい」と話していた。自治体の長の最後の「行政指導」を国は受け入れるべきだ。工事を即刻中止し、辺野古新基地建設を断念するよう求める。
 県が撤回に向け示した判断の根拠は、軟弱地盤の問題や環境対策の不備など、いずれも具体的だ。
 特に普天間飛行場の返還に8条件が付けられている問題は、普天間移設問題の前提を覆す。2017年に稲田朋美防衛相(当時)が、辺野古新基地が完成したとしても八つの返還条件を満たさなければ米軍普天間飛行場は返還されないと参院外交防衛委員会で明言した。
 国はこれまで、住宅地に囲まれた「世界で一番危険な」普天間飛行場を、危険除去のために名護市辺野古に移設させるとしてきた。しかし、普天間「代替」として辺野古の海を埋め立てて新基地を造っても、那覇空港など滑走路の長い民間空港を米軍に使用させなければ普天間は返ってこない。この事実を防衛相が認めたのだ。こんな欺瞞(ぎまん)はない。この1点をとっても撤回の理由となり得る。
 基地建設予定海域に軟弱地盤や活断層の疑いがあることも、今年、新たに分かった。防衛局が実施した土質調査により、護岸建設箇所の地盤がマヨネーズ並みともいわれる緩い地盤だった。防衛局は市民団体の情報公開請求まで調査報告書を出さず、県の質問にも「液状化の可能性は低い」「圧密沈下は生じない」と回答した。
 県は当初の設計通りに護岸工事がされた場合は液状化や沈下などが起こると指摘する。たとえ地盤改良工事を行うとしても費用も工期も予想をはるかに超える可能性がある。
 工事海域に生息するジュゴンやサンゴに代表される環境への影響は以前から指摘されているが、防衛局は県の指導を無視している。
 防衛局は埋め立てを承認した際に提出した環境保全図書などの記載と異なる工事を進めている。変更するなら県の承認を得なければならず、留意事項違反だ。
 翁長知事は、こうした国の姿勢を「傍若無人だ」と厳しく批判した。
 県は聴聞を終え、残るは撤回の決定である。自身で撤回すると明言していた翁長知事が死去し、撤回の時期も焦点となる。
 防衛局は県が示した撤回判断の根拠に反論があるなら一つ一つ科学的に反証すべきだ。それをせず、工事を進めようとするのは「傍若無人」と言われても仕方がない。