米軍普天間飛行場の移設に伴う名護市辺野古の新基地建設を巡り、安倍政権の民意切り捨ての姿勢が改めて鮮明になった。辺野古移設を断念するよう求めた玉城デニー知事に対し、安倍晋三首相は「計画通り今の移設作業を進めたい」と述べ、沖縄側の要求を重ねてはねつけたのである。
知事との会談を経て、政府は12月中旬に辺野古沿岸部への土砂投入を開始する方針を固めている。対話はポーズにすぎなかった。
新基地建設に反対する県民の意思は、今年、4年前の2度の知事選によって明確に示された。にもかかわらず、工事を強行する安倍政権の態度は、沖縄県民を侮蔑しているとしか思えない。
普天間飛行場のある場所は戦前、集落が点在する農村地帯だった。1945年に米軍が接収して滑走路を建設している。戦争が終わって収容所や避難先から住民が戻ったときには立ち入りができなくなっていた。
沖縄戦を戦った海兵隊のほとんどの部隊は終戦後、沖縄を去った。その後、基地反対運動の高まりを受け50年代に第3海兵師団が岐阜、山梨両県から移駐する。普天間飛行場の第36海兵航空群は山口県岩国基地から移転してきた。
沖縄の基地面積が増大したのは本土から海兵隊が移ってきたことが要因になっている。これらは地政学的な理由からではなく、政治的な事情から移駐した。
多くの専門家が指摘するように、軍事面から見れば殴り込み部隊である海兵隊を沖縄に展開する理由は乏しく、「辺野古移設が唯一の解決策」ということはあり得ない。
首相との会談で玉城知事は軟弱地盤の存在によって工事が完遂できない可能性を指摘し、重ねて中止を要求した。移設に最短でも13年かかるとの見通しを明らかにする一方で、完成までにかかる費用については、地盤改良や埋め立て土砂の調達などを含め「最大2兆5500億」との試算を示した。
知事の主張は合理性があり説得力を持っている。血税の無駄遣いを防ぐ上でも工事の続行は許されない。
政府は新基地建設工事を再開するため、本来、政府機関が対象になり得ない行政不服審査制度を乱用するなど、なりふり構わない態度で沖縄を抑え付けにかかっている。土砂投入もその一環だ。既成事実を積み重ねることで、県民があきらめ、屈服するのを待っているのだろう。
玉城知事が述べた通り、県民の多くが不平等、不公正と感じており、不満が鬱積(うっせき)している。一体、どこまで民意を踏みにじるつもりなのか。
法をねじ曲げることもいとわない政府の力は日本の一県にすぎない沖縄県をあらゆる面で上回っている。沖縄が手にしているのは民意に後押しされた「正義」というカードだけだ。政府の理不尽さを国民世論に訴え続けるしかない。