<社説>クルーズ船最多更新へ 国際観光に合う玄関口に


社会
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 観光客1200万人超を目指す沖縄県にとって明るい材料である。2019年の沖縄へのクルーズ船の寄港が過去最多を更新する719回に達する見込みであることが分かった。実現すれば約130万人の観光客がクルーズ船で訪れる。ただし、現状では那覇港でコンテナ用ターミナルを使用せざるを得ないなど、受け入れ態勢が十分とは言い難い。国際観光都市にふさわしい、海の玄関口を用意しなければ、市場拡大は見込めない。

 米国が発祥とされるクルーズ船ビジネスは世界に広がり、近年はアジア市場の拡大が進む。特に中国が伸びており、30年には1千万人市場になると見込まれる。富裕層のレジャーと考えられていたクルーズ商品も、旅行期間が1週間程度と短く、比較的安価な「カジュアル・クルーズ」が出るなど多様化している。沖縄への寄港の増加は経済成長が著しいアジアでのクルーズ船人気の拡大が背景にある。
 県内では主に那覇、中城、本部、平良、石垣の5港が受け入れ、寄港回数は12年の125回から18年は529回と、6年で4倍になった。クルーズ船による入域観光客も12年の18万人から17年には94万人と5倍以上だ。
 クルーズ観光は宿泊を伴わないため消費額が低いと言われていたが、土産物の購入などの消費単価は空路客の約2万4千円に対し、クルーズ船客は約2万9千円と高い。クルーズ客の誘致が県経済に寄与することは間違いない。
 しかし急拡大する寄港に、受け入れ態勢は追い付いていない。沖縄総合事務局が那覇港コンテナターミナルに停泊したクルーズ船の客に行ったアンケートでは、風よけなどの施設がなく、税関や出入国管理などを担う施設も整備されていないことから「待機場所の確保」や「子どもや弱者の設備」などで満足度が50%を下回った。
 実際、寄港地ではタクシーを待つ客で大行列となり、商業施設の混雑や交通渋滞が起こっている。観光地が耐え得る範囲を超えたオーバーツーリズムだとの指摘もあり、観光地として評価の低下にもつながる。
 クルーズ船は数千人が大挙して上陸する。観光客を誘導して県内での消費を促すとともに、旅行地としていかに満足させるかが求められている。県外の寄港地では入港時に人や車両が港内に入れるエリアを広げ、市街地までの無料バスを運行するなどの工夫をしている。
 那覇港で民間によるターミナル整備が検討されるなど各港の整備は進むが、港湾だけでなく、市街地へのアクセスの改善や着地型観光商品の開発などソフト面の整備も求められる。那覇空港と連携して離島などとつなぐ「フライ&クルーズ」など多様な展開も必要だ。官民で知恵を出し合い、商機を活用したい。