<社説>勤労統計不適切調査 欺瞞体質が根本にないか


社会
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 またしても政府による欺瞞(ぎまん)が発覚した。厚生労働省が毎月勤労統計調査を不適切な方法で実施していたことが明らかになったのである。

 勤労統計調査は、賃金や労働時間、雇用の変化などの動向を迅速に把握するため、厚労省が都道府県を通じて毎月実施し、公表している。1人当たりの基本給や残業代の金額、変化率などが調査項目だ。景気指標としても使われる。
 常時5人以上を雇用する全国の約3万3千事業所が対象だ。従業員500人以上の大規模事業所は全て調査することになっているが、東京都内では約1400事業所のうち3分の1程度しか調べていなかった。このようなルールを大きく逸脱した調査手法は2004年から始まっている。
 問題なのは、勤労統計調査で得られる平均給与額が、雇用保険の失業給付や労災保険などの金額を算定する基礎になっていることだ。比較的賃金が高い都内の大企業が調査されなかったことで、平均が低く算出され、その分、雇用保険、労災保険などが少なく支給されていた。
 厚労省の説明によると、過少支給の対象者は延べ1973万人で、総額537億5千万円に達する。政府は19年度予算案を修正し、全ての対象者に不足分を追加給付する方針だが、既に他界した人もいるのではないか。
 厚労省の担当職員らは調査の不備を知りながら是正せず、長年にわたって事実を隠蔽(いんぺい)してきた。昨年1月分からは数値を全数調査に近づけるための改変ソフトを導入している。偽装工作そのものだ。
 根本匠厚労相の姿勢にも疑問がある。先月下旬に報告を受けた後、直ちに公表しなかった。11日の記者会見で謝罪したものの、組織的な隠蔽は否定している。果たしてそうだろうか。歴代の大臣や次官、幹部の中で事実を把握していた人は1人もいなかったのだろうか。
 不適切な調査はどのようなきっかけで始まったのか。責任者は誰か。どのレベルの職員まで情報を共有していたのか。是正を怠ったのはなぜか。疑問は尽きない。
 厚労省が実施する調査を巡っては、昨年の通常国会で労働時間調査の不適切データ問題が発覚している。裁量労働制による労働時間の短縮効果を強調する際の根拠とされたが、前提の異なる調査結果を加工して比較したことが野党の指摘で明るみに出た。
 この上、毎月勤労統計にまで致命的な不備があったのだから、極めて深刻な事態だ。厚労省の内部に欺瞞や隠蔽を許す体質が根を張っているのではないか。
 勤労統計は政府の経済指標に幅広く用いられ、国際労働機関(ILO)、経済協力開発機構(OECD)にも報告されている。政府に対する国際的な信用にも関わりかねない。
 原因と経緯を徹底的に究明し、包み隠さず公表することが信頼回復の第一歩だ。