<社説>オリオンビール買収へ 地元密着、今後も貫いて


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 野村ホールディングス(HD)と米投資ファンド大手のカーライル・グループが、オリオンビールの買収を検討していることが明らかになった。経営体制の強化や販路拡大に取り組むという。

 県内・国内のビール需要が低迷する中、海外での販路を確保し新たな活路を見いだすことが期待できる。一方で、県民に愛されてきたオリオンビールが外資の傘下に入ることで、県経済への影響が懸念される。地域経済にもプラスになる形で、地元ブランドが存続することを望みたい。
 オリオンビールは県内製造業を代表するトップ企業だ。米施政下の1957年に設立された。今年はビール販売開始から60年になる。「地元のビールが断然うまい」をキャッチフレーズに、長年、沖縄の顔となってきた。
 近年、ビール業界を取り巻く環境は厳しくなっている。大手5社の2018年の国内出荷量は14年連続で最低を更新し続けている。背景には、消費者の節約志向や酒の好みの多様化がある。
 オリオンも例外ではない。17年度のビール類の売上数量は、県内が1・7%減と縮小傾向だった。これに対し、県外は11・5%増、海外は15・1%増だった。
 海外での伸びは著しく、この10年で3倍に増えた。現在は15カ国・地域に輸出しており、最も多い台湾をはじめ米国・カナダ、香港、韓国などで定着してきている。
 沖縄のビールが海外でも愛飲されるのは喜ばしい。今後は、外資ファンドの力を借りて海外展開を一層進めることも可能になる。だが、輸送コストの問題や海外市場での厳しい競争に対抗していくことが課題だ。
 投資ファンド側は、買い付ける株式数や価格、期間などの条件を提示して株式を買い集める「株式公開買い付け」(TOB)によって買収を進めるとみられる。
 投資ファンドは徹底して利益を追求する。ビール事業よりも、オリオンの含み資産に可能性を見いだしたのではないかとの見方もある。観光客の増加が期待できるリゾート地・沖縄にあるホテルやゴルフ場などは不動産価値が高く、大きな魅力であろう。
 今回の買収計画で県経済界には衝撃が走った。沖縄の経済にとって「地場産業の雄」の存在は大きい。それが弱まるとすれば不本意だ。今後、地域経済にマイナスをもたらさないよう願いたい。
 酒税の軽減措置の行方も焦点だ。19年からの2年延長が決まったが、外資傘下でも同様に適用され得るのか、予断を許さない。
 オリオンビールは「報恩感謝・共存共栄・地域社会への貢献・食文化への寄与」を経営理念に掲げる。投資ファンドの傘下に入ったとしても、これまで地元に密着して培ってきた「地域社会への貢献」という所期の目的を、発展的に続けていってほしい。