<社説>増え続ける児童虐待 加害者の更生が防止策だ


社会
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 何度かSOSが出されながら、大人がミスを重ね、救える命が救えなかった。そうとしか思えない事件だ。

 千葉県野田市立小4年の栗原心愛(みあ)さん(10)が自宅浴室で死亡した事件で、心愛さんが虐待を否定する文書を児童相談所に提示し、児相は2日後に心愛さんを自宅に戻す決定をしたことが新たに分かった。後日、心愛さんから文書は父親に書かされたと打ち明けられたが対応せず、一度も家庭訪問をしていなかった。
 心愛さんは学校のアンケートに「お父さんにぼう力を受けている」と書き、児相は2017年11月に一時保護し、親族宅での生活を条件に12月に解除した。
 その後、父親が「お父さんにたたかれたのはうそです」「お父さんに早く会いたい」「児相の人にはもう会いたくないので来ないでください」などと書かれた文書を示し、心愛さんを家に連れ帰ると迫り、「名誉毀損(きそん)で訴える」と職員を脅した。
 この時点で、親と離した上で心愛さんの真意を確認することはできなかったのか。
 さらに翌月、学校での面談で心愛さんから父親に文書を書かされたと聞いた後も、対応しなかった。父親に強要され文書を書かされた時点で虐待と捉えるべきだ。児相の対応が及び腰だったことは否定できない。
 そもそも心愛さんに対する虐待の疑いは学校のアンケートで訴えたことで発覚した。しかし、その後の対応は不手際続きだ。市教育委員会は父親のどう喝におびえ、アンケートを虐待の加害者とされる父親に渡してしまった。
 父親に文書を書かされたことを打ち明けても児相は動かなかった。その後、心愛さんは学校のアンケートに虐待を訴えることはなかった。誰も信じられなくなり、深い絶望感を抱いたのではないか。
 虐待の情報は引っ越す以前の糸満市在住時からあった。父親による母親へのDVと心愛さんへの虐待疑いがあり、市の児童家庭相談室が対応する事例とされたが、心愛さんについては学校に見守りの協力を依頼しただけだった。
 警察庁によると、18年に虐待疑いで児相に通告した子どもは前年比22%増の8万104人で、統計のある04年以降、初めて8万人を超えた。児相も多くのケースを抱え、対応に苦慮している。
 虐待の加害者の多くが「しつけ」と称して正当性を主張する。しかし、暴力で言うことを聞かせようとするのは虐待であり、しつけとは明らかに違う。
 子どもの見守りを強化するのはもちろんだが、加害者が暴力を振るわないよう更生のための教育を施すことが不可欠だ。増え続ける虐待事案は、学校や児相に頼るだけの虐待防止策が限界にある証拠ではないか。
 加害者への更生教育プログラムを含めた総合的な虐待防止対策が求められている。