安倍晋三首相がトランプ米大統領をノーベル平和賞に推薦したことが明らかになった。昨年6月の米朝首脳会談の後、米国政府から頼まれてノーベル賞委員会関係者に書簡を送ったという。
トランプ氏が15日の記者会見で暴露しなければ、こんなに早く推薦の事実が明るみに出ることはなかった。安倍首相にとっては誤算だったはずだ。こうなった以上、首相は推薦理由を含め、真摯(しんし)な態度で国民に説明すべきだ。
トランプ政権はロシアとの中距離核戦力(INF)廃棄条約の破棄を発表し、新たな軍拡競争に陥りかねない状況をつくり出した。史上初の米朝首脳会談にこぎ着けた点は評価できるが、北朝鮮の非核化のめどは立っていない。
何よりも問題なのはトランプ氏の基本姿勢である「米国第一主義」だ。自国の利益を最優先し、世界の平和どころか、国内外に分断の種をまき散らしている。
ノーベル平和賞は国際的な平和活動や軍縮、貧困、環境問題などに取り組み、人類の平和に貢献した人物・団体に授与される。賞の趣旨に照らしても、トランプ氏がふさわしいとは思えない。
米政府に求められたからといって唯々諾々として推薦していいのか。安倍首相だけでなく、日本人全体の見識が疑われかねない。
米紙ワシントン・ポストの著名記者ボブ・ウッドワード氏の著書「恐怖の男」(日本経済新聞出版社)によると、国防長官だったマティス氏は、在韓米軍の重要性を軽視するトランプ氏について、まるで小学5、6年生のようにふるまい、理解力もその程度しかない―と側近に嘆いたという。
そんな気質のトランプ氏だ。ノーベル平和賞に推薦すれば喜ぶだろうし、逆に推薦を断れば日米関係に悪影響を及ぼしかねない―といった打算が働いたのではないか。
米国から大量の武器を購入するのも、同じような背景があるのだろう。トランプ氏にとっては、日本ほど御しやすい国はあるまい。
改めて浮き彫りにされたのは、米国の機嫌を取るためなら、できることは何でもやってのける安倍政権の卑屈な体質だ。
米国に媚(こ)びを売る一方で、沖縄に対しては民意を無視して名護市辺野古への新基地建設を強行している。
強い者には徹底してへつらい、弱い者にはかさにかかって高飛車な態度に出る。時代劇に登場する悪代官をほうふつとさせる。
日本と同じように米軍が駐留するドイツ、イタリアに比べて著しく不利な内容の日米地位協定は手つかずのままになっている。米国のたいこ持ちを続けている限り、いつまでたっても見直しを提起することはできない。
弱者に厳しく、強者に迎合する体質を根本から改める必要がある。へつらうだけでは見くびられるばかりだ。