<社説>憲法施行72年 令和の時代も守り続けて


社会
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 2020年の改正憲法施行を唱える安倍晋三首相の下で憲法は危機を迎えている。辺野古新基地建設のため昨年12月に政府が強行した土砂投入にこそ、人権よりも国家や軍事を優先する安倍改憲の本質が表れている。民主主義をないがしろにする政権の暴走を止めなくてはならない。

 天皇の代替わりの中で、日本国憲法は施行から72年を迎えた。新しい時代も平和が続くことを願う国民の期待を踏まえると、今年ほど憲法の持つ意義と価値を見つめ直す機会もないだろう。
 平成の30年余は、現憲法の下で即位した象徴としての天皇が、一つの元号を全うする初めての時代になった。
 上皇さまは1989年の即位に当たり「憲法を守り、これに従って責務を果たすことを誓う」と語り、在位中で最後の昨年12月の誕生日記者会見で「平成が戦争のない時代として終わろうとしていることに、心から安堵(あんど)している」と胸の内を明かした。
 憲法99条は「天皇又は摂政及び国務大臣、国会議員、裁判官その他の公務員は、この憲法を尊重し擁護する義務を負ふ」と、憲法の尊重擁護の義務を定める。先の大戦の反省に立ち、権力者が暴走して国家を思うままに操ることがないよう、法によって国家権力を縛る「立憲主義」を規定した条文だ。
 憲法の擁護者としての上皇さまの姿勢は単に個人の心掛けではなく、憲法により主権者となったわれわれ国民との最も重要な約束事だった。
 ところが内閣の長として同じく憲法尊重義務を負う安倍首相は、ことあるごとに改憲への意欲を語ってはばからない。2017年の憲法記念日には憲法9条に自衛隊を明記することを柱に「20年の改正憲法施行」の号令をかけ、自民党は改憲4項目の条文案をまとめた。
 集団的自衛権を認めていない憲法解釈をねじ曲げて安全保障法制を成立させ、自衛隊による米軍支援の領域を地球規模に拡大した。憲法を無視して現実を変更しておきながら、「現実に即した」憲法にすると改憲を正当化する論法は詭弁(きべん)と言うほかない。
 辺野古埋め立て反対の明確な意思を示した県民投票を顧みず、「辺野古が唯一」と開き直る政府の姿勢は憲法が保障する基本的人権を侵害するものだ。民主的な手続きを無視し、日米同盟の名の下に軍事強化を押し付ける。これで法治国家と呼べるのか。
 自衛隊明記の改憲がなされれば、戦力不保持を定めた9条は空文化する。南西諸島への配備が進められる自衛隊の存在は周辺地域との緊張を高め、沖縄の島々が再び戦禍に巻き込まれる危険がある。
 令和も戦争がない時代にするためには、国家権力を制約する平和憲法を守り続けていくことが不可欠だ。首相は憲法尊重擁護の義務を踏まえ、辺野古の埋め立て工事を直ちに断念すべきだ。