玉城デニー知事が県政の重要課題について有識者の意見を聞く「万国津梁(しんりょう)会議」で、児童虐待防止に関する初会合が開かれた。県は会議の提言を踏まえ、児童虐待防止に関する条例を来年3月までに制定する方針だ。ぜひ実効性のある条例を制定してほしい。
県によると、沖縄の児童虐待件数は2014年度以降、増加に転じ、16年度は過去最多の713件、17年度は691件となった。17年度の児童人口千人当たりの件数は2・23件で全国43位と統計上は発生が少ない県になる。
だが数字をうのみにすることはできない。実際、17年度に県内市町村に寄せられた児童に関する相談件数は4295件に上り、そのうちの約4分の1は直接虐待に関する内容だったとの報告もある。
行政などが把握、対応できていない虐待案件が多数あるとみるべきだろう。また初会合で玉城知事らも触れたように、県内の児童虐待を巡る背景の一つとして、子どもの貧困や家庭内暴力などがあることにも留意する必要がある。
県が16年1月に発表した県内の子どもの貧困率は29・9%と全国平均の2・2倍に上り、3人に1人が貧困状態にある。ひとり親世帯に限れば58・9%に達する。
家庭の経済的困窮が暴力に直結するわけではもちろんない。だが戦後の米統治下で児童福祉政策が立ち遅れ、親の貧困が子や孫の世代にも連鎖しているという現実が沖縄には重くのしかかっており、貧困問題は家庭内暴力や虐待にも関連しているという指摘を直視する必要がある。
沖縄の子どもたちを取り巻く閉塞(へいそく)状況の解消を図っていくという大きな視点で、虐待防止の取り組みを推し進めたい。条例には総合的な取り組みを反映させることが望ましいのではないか。
初会合では大学教授や弁護士ら6人の委員が出席し、児童虐待の予防策や早期対応の在り方、関係機関との連携、体罰禁止規定などの論点について幅広く話し合った。
児童虐待に関しては6月に改正児童虐待防止法と改正児童福祉法が成立し、親による子どもへの体罰の禁止や児童相談所の体制強化が定められた。来年4月に施行される。東京都では、家庭内でしつけと称した子どもへの体罰や暴言を禁じる虐待防止条例が今年3月に成立し、4月から国に先行して施行された。
都条例も改正法も罰則はない。体罰禁止規定だけでも効果があるとの意見もあるが、むろん規定だけで虐待はなくならない。子育てに悩む親への支援、虐待をした人への再発防止プログラムなど総合的な予防策に取り組みたい。
児相や学校、警察などの連携強化をはじめ従前から指摘されている課題も少なくない。条例を待たずとも、今でも改善できるところから速やかに実行に移したい。子どもたちが犠牲となる悲劇を根絶しなければならない。