ジャパン・ハンドラーと呼ばれる知日派が主導する米国の対日政策を民主的に制御するのは不可能なのか-と半ば絶望視していた人々にとって、この「知の巨人」の提言は大いなる救いとなろう。
世界的に著名な言語学者、ノーム・チョムスキー博士(米マサチューセッツ工科大名誉教授)が琉球新報のインタビューに応じ、米軍普天間飛行場の名護市辺野古への移設計画について「私が知る限り、沖縄の人々は県内移設を望んでいない。沖縄のことは沖縄が決めるべきだ」と強調した。日米両政府に対し、沖縄の自己決定権を尊重せよとの主張は、県民にとって心強い限りだ。
1996年の普天間返還合意以来、両政府は県内移設に固執しているが、沖縄では知事選、国政選、県議選、市長選など各種選挙を通じて熟議を重ね大半の県民が「辺野古移設反対」の意思を示した。
普天間について、仲井真弘多知事は「県外移設」を、県内41市町村の首長、議会は安倍晋三首相に提出した「建議書」で閉鎖・撤去を求めている。沖縄側はあらゆる民主的手続きを踏んだ。これに対し日米は代替案をろくに検討もせず、県民要求を無視している。
チョムスキー博士はこうした状況も踏まえ、米外交について「帝国主義そのものだ。東南アジアや中東など外国に対する政策は民主主義を傷つけてきた」と批判。米国民主主義の精神が沖縄問題に反映されていないとの考えも示した。
日米は沖縄で民主主義を機能させるどころか、事故率の高いオスプレイの強行配備、辺野古埋め立て申請と、強硬策を続ける。とりわけ自国民には民主主義の意義を語り、沖縄では民意を顧みない米政府の二重基準は罪深い。
米国では近年、有力政治家や安全保障研究者、メディアの間で、辺野古移設に対する疑義や在沖海兵隊の撤退論が浮上するなど、普天間問題の解決策をめぐる意見が多様化している。米国民主主義の懐の深さ、真価が今後の米外交で問われる。
チョムスキー博士は、沖縄の基地過重負担の軽減方法について「意味のある抗議行動が物事を動かす唯一の力になる。非暴力を貫き、沖縄以外の人々とも協力すべきだ」と、日米など国内外の市民との連携の意義を説いた。日米の壁は厚いが、沖縄側の主張には民主主義的な正統性がある。県民が気後れすることは全くない。