秘密保全法ができれば、この国は国民の人権が二の次の「監視社会」になってしまうのではないか。
安倍晋三首相が機密情報漏えいを防ぐため、罰則規定を盛り込む「特定秘密保全法案」の整備に意欲を示す中、表現の自由、思想・信条の自由が、国家権力の深い闇に絡め取られるような空恐ろしい事案が明らかになった。
防衛省が職員を対象に宗教・政治団体や交友関係など、プライバシーに関わる情報を調査している。「身上明細書」と題する調査書は、私生活にも踏み込み、交友関係がある友人・知人についても、氏名、生年月日、勤務先などを記す欄がある。
防衛省職員に機密情報を扱う適格性があるかの判断に用いられているが、職員の友人・知人の個人情報を本人の意思確認の段取りも踏まず、国が一方的に収集できる仕組みになっている。憲法が保障するプライバシー権や、個人情報を制御する権利を侵害する行為だ。
秘密保全法制定と表裏一体の動きであり、国民監視の危険な第一歩と位置付けねばならない。
この身上調査を実施する根拠となる法律はない。それなのに、長く調査を実施してきた防衛省にならい、外務省や警察庁など23機関に「秘密取扱者適格性確認制度」の適用が広がっている、という。
適法性に疑問符が付く個人情報の収集が国家機関の独断で拡大している状況はあまりに危うい。
秘密保全法制は前民主党政権が国会提出を目指したが、「知る権利を制限する」と批判され、断念した。保全すべき特別秘密として、「国の安全」「外交」「公共の安全と秩序の維持」を挙げていた。
国が決められる「公共の安全」という概念を理由に特別秘密に指定すれば、国に不都合な情報を国民から隠せるようになる。
法案を検討した有識者会議は対象者を公務員に限らず、業務委託を受けた民間人にも拡大するよう求める一方、「運用を誤れば、国民の重要な権利を侵害する恐れがないとは言えない」と指摘していた。
恣意(しい)的な運用の危険性を、今回の「身上調査」が裏打ちしている。
防衛省は過去にも、情報公開請求した人のリストを作り、住民基本台帳から市民の情報を得ていた。国のためなら個人情報を勝手に利用していいという考えが底流にある。民主主義を破壊しかねない秘密保全法は、到底容認できない。