米兵身柄要求せず これで国民の人権守れるか


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 米海軍佐世保基地所属の米兵2人が基地外の民間地で日本人女性に性的暴行を加えた疑いのある事件で、長崎県警が兵士2人を女性暴行容疑で書類送検していたことが分かった。長崎県警は琉球新報の取材に「この事件に関してコメントを差し控えている」と回答。しかし取材当初は「米側に身柄の引き渡しを求めていない」と答えていた。長崎県警は十分な捜査手順を踏んだとは言えず、対応は疑問だ。

 日米地位協定17条5項Cでは米軍人、軍属の被疑者の身柄が米側にある場合は、起訴されるまで日本側に引き渡さないことを定めている。しかし1995年の日米合同委員会合意で、殺人、強姦(ごうかん)、その他に日本政府が重要だと認識するものについては、起訴前の身柄引き渡しについて米側が「好意的な考慮を払う」ことを決めた。殺人、女性暴行など凶悪犯罪の容疑者に限って日本から要請があれば、米側が身柄引き渡しに応じることになったのだ。
 運用改善は同じ年に沖縄県で発生した米兵暴行事件がきっかけだ。県民の反発の高まりで米側が譲歩し、限定的だが日本側の捜査の正常化を前進させる合意だったはずだ。それなのに長崎県警は引き渡しを求めていない。要求できる権利を放棄した長崎県警の姿勢は、被害者よりも加害者側に立っていると思われても仕方がない。
 今回の事件は被害を受けた女性が佐世保基地に相談して発覚し、佐世保署に被害を届け出たものだ。身柄を確保しないことで十分な捜査ができず不起訴や起訴猶予になったら、長崎県警は勇気を出して被害を訴えた女性にどう釈明するのか。こうしたことが続けば、被害者は警察に届け出ることをためらうだろう。警察が被害者に泣き寝入りを促し、米兵犯罪を助長するような愚を犯してはならない。
 長崎県警にとどまらない。日米合意後の96年以降に全国で女性暴行容疑で摘発された米兵35人のうち、8割強の30人が逮捕されずに事件処理されていたことが分かっている。果たしてこれで警察は国民の人権を守っていると言えるのか。全ての犯罪で起訴前に身柄を引き渡すよう地位協定を抜本的に改定すべきだ。それを犯罪の抑止につなげたい。現時点では、少なくとも日米合意の運用改善の適用事件は全て身柄引き渡しを要求すべきだ。主権国家なら当たり前のことだ。