「人種差別」判決 憎悪表現禁止へ議論急げ


この記事を書いた人 Avatar photo 琉球新報社

 ヘイトスピーチ(憎悪表現)と呼ばれる差別的発言を人種差別と認定する初の司法判断が出た。差別的な活動に対する一定の抑止効果が期待される意義深い判決だ。

 京都朝鮮第一初級学校(京都市)周辺で大音量の街宣活動を繰り返して授業を妨害したとして、運営する学校法人が「在日特権を許さない市民の会」(在特会)などを訴えた訴訟で、京都地裁は学校の半径200メートル以内での街宣禁止と約1200万円の賠償を命じた。
 橋詰均裁判長は街宣とその様子を撮影した映像をインターネット上で公開した行為に関し「著しく侮蔑的な発言を伴い、人種差別撤廃条約で禁止した人種差別に当たり、違法だ」と認定した。「示威活動で児童らを怖がらせ、通常の授業を困難にし、平穏な教育事業をする環境を損ない、名誉を毀損した」とも指摘した。
 ヘイトスピーチは人種や民族、宗教などを理由に激しい言葉で憎悪をあおり立てる。在日韓国・朝鮮人が多く住む地域などで、「殺せ」「たたき出せ」「レイプしろ」と叫ぶデモが繰り返されている。
 おぞましい言葉の矛先は沖縄にも向けられた。1月に41市町村の首長らがオスプレイの配備撤回を訴えて東京都内を行進した際には、日章旗や旭日旗、米国旗を手にした団体が「売国奴」「日本から出て行け」などと数時間ののしった。
 自分と立場や属性が異なる人々のもとへ突然現れ、差別的発言を浴びせ続ける。常軌を逸した行動だが、ドイツや英国、フランスなどの欧米では「犯罪」に該当するのに対し、日本にはヘイトスピーチを規制する法律がない。
 ヘイトスピーチに対して日本政府は「禁止法が必要になるような差別は存在しない」との立場だ。NGOのヘイトスピーチ対策に関する国会議員アンケートでは、回答率が1割以下だった。政府や国会の関心の低さが、憎悪表現が増幅する温床になってはいないかと深く憂慮する。
 判決が言及した人種差別撤廃条約に、日本は1995年に加入している。ヘイトスピーチの法規制に対しては権力側の乱用により表現、言論の自由が奪われるとして警戒感も強いが、人権差別など対象を絞った法制化の議論も必要ではないか。ヘイトスピーチは、個人や民族の尊厳を否定するもので断じて許されない。現行法の厳正な運用による規制も検討すべきだ。