国家安保戦略 「積極的平和」の転倒だ


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 安倍晋三首相が自らのカラーを打ち出すことにこだわるあまり、安倍政権の外交・安全保障政策にきなくささが増してきた。開かれた熟議をはなから放棄しており、国民不在としか言いようがない。

 首相が設置した有識者懇談会が、外交と安全保障の包括的指針となる「国家安全保障戦略」の概要を固めた。中国や北朝鮮への警戒感を色濃くにじませ、外交摩擦も顕在化しそうだ。安倍政権は、この戦略を防衛計画大綱の上位に位置付けるという。
 長期的な防衛力整備や運用に関する基本指針である防衛計画大綱は1976年に策定された。95年、2004年、10年に改定の際には、国会で与野党が主張をぶつけ合い、激論が交わされてきた。
 安倍首相が設けた「外交と安全保障に関する有識者懇談会」(座長・北岡伸一国際大学長)が初回会合を開いたのは9月中旬だ。取りまとめ会合となる次回の4回目までわずか1カ月余の議論で、国の外交・安全保障の指針となる戦略の骨格を固めることになる。
 私的諮問機関が大きな権限を持ち、防衛大綱の上位文書をまとめ、年内策定を目指す新防衛大綱にも反映させる筋書きがある。
 不戦を誓う平和憲法の下で国際紛争を抑え、「専守防衛」など抑制的な国防方針で国民の安全を確保してきた日本の安保政策を大転換しようとしている。一連の手続きは非民主的かつ拙速に過ぎる。新たな安保戦略の必要性について説明も議論も尽くされていない。
 この戦略は、基本理念に「積極的平和主義」を掲げるが、軍事色が濃いだけに「積極的平和」の理念が転倒している印象を受ける。
 平和学の世界的権威であるヨハン・ガルトゥング氏は、戦争のない状態を「消極的平和」と捉える。直接危害を与えるわけではなくとも、人々や社会の安全を脅かす貧困、抑圧、差別などの社会的不正義を「構造的暴力」と位置付ける。
 それを断ち切ることこそ、ガルトゥング氏が提唱する「積極的平和」と重なる。日本の外交・安保政策が追い求めるべき理念でもあるはずだ。沖縄に置き換えれば、いつ事件・事故の被害に巻き込まれるか分からない広大な米軍基地と米兵の存在などが「構造的暴力」となる。
 安倍政権が掲げる「積極的平和主義」は軍事に偏重し、「構造的暴力」を解消できまい。「積極的平和」とは似て非なるものである。