昨年末の安倍晋三首相による靖国神社参拝や歴史認識に対し、同盟国・米国と政界重鎮、主要メディアによる懸念の表明が続いている。
歴史認識をめぐる日本と中国、韓国との対立が激化する中、安倍首相は「対話の窓はオープン」と強調しているにもかかわらず、関係改善に向けた主体的行動が伴わず、言葉だけが独り歩きしていることへの不信感がにじんでいる。
さらに、NHKの籾井勝人会長の従軍慰安婦をめぐる発言や、南京大虐殺をめぐる百田尚樹経営委員の発言が影響し、ケネディ駐日米国大使がNHKの取材を拒んでいることも明るみに出た。公共放送の中立性に重大な疑問を生じさせた問題発言を、実質的な任命権者である安倍首相が放任していることも間接的に影響していると言わざるを得ない。
日本政府は「日米関係は揺るぎない」と言い張るが、安倍政権への米側の不満が収まる気配はない。ここ最近にない異常な事態だろう。
安倍首相が「対話の窓」を開く資格を得るには、靖国参拝が及ぼした外交への悪影響を直視し、歴史と真摯(しんし)に向き合う方向転換をまずなすべきではないか。
米有力紙ワシントン・ポストは17日、アジアで安倍政権が、「オバマ政権にとって最も深刻な安全保障上の危機」を引き起こす可能性があると警戒感を示した。すなわち、偶発的紛争のことである。
論説は、中韓両国との関係改善の可能性が消滅し、日米関係も損なわれたと分析する。オバマ大統領と安倍首相の溝を突き、中国が領有権問題を抱える尖閣諸島で力の行使を試みる可能性が出てきた-としている。
尖閣諸島を県域に抱える沖縄にとっては、あってはならない最悪のシナリオである。日米関係と中国の台頭を注視し、日本の指導者への危機感を強める米有力紙の見解は重い。
同じ日、米下院外交委員会のロイス委員長(共和党)は靖国神社参拝が「中国を利する」と発言した。オバマ政権の外交政策に影響力を持つ重鎮がこの時期に東京で懸念を伝えた意味を首相はどう受け止めるのか。
米国内では、ベトナム戦争や先住民族のインディアンの虐殺など、国の負の歴史を正面から受け止め、学校現場で次世代に継承する重要性が強く認識されつつある。日本と対照的な動きが顕在化する米国の変化に学ぶべきものもある。