名護漁協に36億円 恵みの海を金で汚すのか


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 米軍普天間飛行場の名護市辺野古移設計画で、沖縄防衛局が海域の埋め立てに伴う漁業補償金として名護漁業協同組合に約36億円を支払うとした契約を結んだ。防衛局は当初、24億円を提示したが、漁協側が強く難色を示したため、5割増しで合意したようだ。

 同局の武田博史局長は「内容については差し控える」として契約額を明らかにしていない。どのような積算根拠で当初額より5割増しとなったのか。国民の血税を扱っている以上、説明責任を果たすべきだ。
 武田局長は、名護漁協の漁獲量、漁獲高、平年の純収益額などに基づいて漁業補償に関する決められた算定方法にのっとり、積み上げたと説明した。そうであるならば、当初提示した24億円は算定方法が間違っていたというのか。全くでたらめな説明だ。
 4月の時点まで防衛局は24億円での締結を漁協側に迫っていた。しかし漁協が防衛局を飛び越えて本省に上積みを要求したため「なるべく工期を短縮したい」との姿勢を示す小野寺五典防衛相が最終的に増額を了承した。政府関係者は増額したことについて「埋め立てが進むなら安いものだ」と話している。
 漁協を懐柔するため、積算根拠がない「つかみ金」として5割増しまで積み上げたのが真相ではないか。普天間移設を実現するためなら、幾らでも札束をばらまくのか。もしそうであるなら会計検査院もなめられたものだ。
 防衛局は昨年3月、名護漁協が辺野古移設に関する公有水面埋め立て申請に同意した総会についても、会場借り上げ費用とバスのレンタル料を支払っていた。漁業者は先人から受け継がれてきた恵みの海を手放すのか。
 防衛局が22日に公表した米軍キャンプ・シュワブ水域生物等調査報告書によると、埋め立て予定地では絶滅危惧種ジュゴンが好むアマモなどが低密度で広がる海草藻場と食み跡が確認されている。15日間の調査で延べ17頭のジュゴンが嘉陽、大浦湾、古宇利島付近で確認されている。
 環境省の有識者会議は生物学や生態学の観点から選んだ「重要海域」に辺野古沖を指定している。生物多様性に富む辺野古の海は人類の宝であり、政府も漁業者も目先の利益にとらわれて、これを破壊してはならない。移設計画こそ断念すべきだ。