<南風>「ダメ出し」


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 「ダメ出し」。辞典で意味をひくと「他人の行為や仕事に対して、批判を行ったり、改善を促したりすること」(元来は演劇・芸能の分野で、演出家が演技や台本などの悪い点について注意すること)とある。今では、一般でも利用されている言葉である。

 芝居の稽古が終わると、演出家から「ダメ出し」を聞く。ダメ!を出されるのだから、楽しい気持ちになる時間ではない。そのことに全く違和感など抱くことなく育ってきた。

 そんなある日、米カリフォルニア・ユースシアターから演出家メアリー・ホール・サーフェスが来日した。私が主役を務める舞台のために来たのだ。稽古中盤の頃、メアリーは、「ダメ出し」時間の雰囲気にずっと違和感を抱いていたらしく、通訳と真剣な表情で何やら話をしていた。「オー・リリー」と突然叫んだ彼女、その後通訳が私たちにこう話し出した。

 「素晴らしいキャリアを持つ俳優のあなたたちに対して、ダメなところを伝えるためにわざわざアメリカから来たわけではありません。芝居をより良い作品に仕上げ、どうお客様に届けるか。そのことを伝えるために私はアメリカから来ました。ですから、稽古が終わって暗い表情と雰囲気にならないでください。達成感を持って、明るい表情で、どうだった!と思ってください。そして、ダメ出しの時間という考えは捨ててください。これからは、ミーティングの時間と改めてください」と。

 謙虚であることが美徳の日本人と、自己肯定感の高いアメリカ人との違いのようなものを感じた瞬間であった。

 このことは、演劇だけでなく教育の現場でとても大切なのではないかと感じ、私も今、子どもたちと接する際に「できていることを認めること」を心掛けている。
(当山彰一、俳優)