<南風>エネルギーシフト


社会
この記事を書いた人 Avatar photo 琉球新報社

 日本の温暖化対策を調べる中で、1冊の本に出合った。2018年出版の、田中信一郎氏著「信州はエネルギーシフトする」だ。長野県の温暖化政策に感銘を受けた私たちは、この8月に田中先生を招き、沖縄県地球温暖化防止活動推進センターとの共催で、沖縄県内の自治体職員向けのオンライン研修を行った。テーマは「長野県エネルギー戦略を読む」。長野県の温暖化政策の柱である。

 政策目標は、温室効果ガス削減と省エネ化、エネルギー自給率のアップ。省エネ対策としては、運輸ではEV車普及・都市のコンパクト化とカーシェア。家庭では新築住宅の断熱化と既存住宅の省エネ改修。産業では設備や建物の省エネ化とオフィスビルの集約。2050年のビジョンを明確に示し、そこへの道筋は、不確かな新技術に頼らず、既存技術でやれることを徹底普及し、エネルギー自立で地域経済を回す内容だ。県が率先し、地域と協力する体制も重視されている。

 化石燃料の購入費は、日本全体で年間15・8兆円、1人当たり約12・5万円(2017年)。エネルギー自立は、これを地域に取り戻そうということだ。また、住宅の省エネ化や改修技術を地元の工務店が学び、それを広めれば、やはり地域にお金が回る。住宅への初期投資は割高になるが、光熱費が減り、結果的に快適な暮らしをしながら生活コストは下がるのだ。

 環境政策と経済政策をつなげると、行政の枠組みが変わる。県政なら、温暖化対策・気候変動適応策とエネルギー政策の一本化。市町村なら総合計画に全て含めることで、複数の会議と政策立案の手間を省き、本当に必要な仕事に職員の能力と時間を使う。長野と沖縄では、自然資源や気候風土が大きく異なるが、脱炭素への行政の取り組みには大いに学ぶところがあると思う。

(鹿谷麻夕、ゼロエミッションラボ沖縄共同代表)