<南風>桜が咲く季節


社会
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 20代のころ、私は北海道根室測候所で3年間勤務した。春の訪れは遅く、当時国内最晩のチシマザクラが咲くのは5月中旬だった。一方、沖縄は1月に桜の季節を迎える。那覇のヒカンザクラも今年は1月11日に開花した。チシマザクラとは約4カ月の差があり、日本の広さを実感する。

 長期的な気温上昇の影響を受けて、桜の開花日は、日本全国の平均で10年当たり1日の割合で早まっている。ただし沖縄地方では早まる傾向が明瞭でない。樹種の違いや、冬も本土より格段に温暖なことなどの影響もあるだろう。とは言え、沖縄地方の冬から春にかけての最低気温も上昇傾向にある。これが桜に別の影響を与える可能性がある。

 県内ではご存じの方も多いと思われるが、沖縄本島では南部より北部で、北部では標高が高い八重岳などで桜は早く開花する。

 桜の花芽は夏に形成されていったん休眠状態となるが、冬に一定の低温にさらされることで目覚め、開花に向けて成長する。花芽の順調な成長にはこの「休眠打破」が必要とされる。

 八重岳での早い開花は、寒気に早くさらされやすい北に位置し、また高い場所で気温が下がりやすい、つまり休眠打破が早く起こりやすいからと考えられる。

 将来地球温暖化がさらに進行したらどうなるのか。全般に開花が早まると予測される一方で、冬に気温が十分に下がらず、休眠打破が確実に行われない可能性が指摘されている。

 すると桜は寝ぼけたような状態でだらだらと順次開花し、咲きそろう前に初めに咲いた花が散っていく状況に陥る。そう、「満開」になれないのだ。暖冬だった年に満開が観測されない事例は実際既にある。

 地球温暖化は、私たちが当たり前に接している風物詩を「昔ばなし」にしてしまう恐れがある。満開の桜を将来も見たいものである。
(河原恭一、沖縄気象台 地球温暖化情報官)