<南風>沖縄での驚き


社会
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 沖縄に来てから数カ月たったころ、あることに気付いた。あの人もこの人も、手に持っている手帳には「沖縄手帳」とのロゴが記されているではないか。さては沖縄県から手帳が支給されるのだな。欲しいな。そう思っていたが、しばらくして業者の方が沖縄手帳の営業にやって来て、売物であることを知った。ここまで多くの人が、同じ手帳を購入して使われるとは、逆にまたびっくりだ。

 沖縄はお盆や正月など、旧暦で行事を行うため、旧暦記載がある沖縄手帳を使うのだという。その翌年から自分も見よう見まねで、沖縄手帳を使い始めた。その後10年は使っているが、振り返れば一度も旧暦を確認したことがない…。親戚が誰1人としておらず、旧盆などの行事はいまだ見たことすらない。そもそも必要な場面がないのである。

 もはや沖縄手帳を使うこと自体、沖縄の人に少し近づけた気分になる優越感だけ。自分はとあるバンドの大ファンで、そのグッズなりを身につけるだけでテンションが上がるのだが、それと似た感覚だ。沖縄人になりたくてもなれない、ナイチャーのまね事といったところか。

 以前にいたスタッフのこと。出勤するなりやつれていて、彼はこう切り出した。「マブイを安謝の交差点で落としてしまって、拾いに行ってもいいですか…」と。その時マブイの意味が分からなかったが、何か大事なものを落としたのであろう。勤務態度も素晴らしい好青年だったので、すぐに拾いに行かせた。

 数十分後、見違えるほどすこぶる元気になって帰ってきた。見つかったらしい。魂なの? 後でマブイの意味を聞いてひっくり返った。沖縄人に近づきたい自分は、いつか落としたら拾ってみたいとも思った。あ、そういえば昔、地元のあの場所で落としたままのはず。いつか拾いに行こう。

(森本浩平、ジュンク堂那覇店 エグゼクティブ・プロデューサー)