<南風>「外国人助っ人」


社会
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白木 敦士(琉球大大学院准教授)

 日本シリーズが開幕中だ。阪神とオリックスの関西勢対決は59年ぶりで話題を呼んでいる。沖縄では宜野湾市立野球場で春季キャンプを行う横浜DeNAベイスターズを応援したファンも少なくなかろう。1998年を最後に四半世紀もリーグ優秀から遠ざかっている。ベイスターズの期待の星がトレバー・バウワー投手だ。米国大リーグで5年連続2桁勝利を収め、2020年には、最優秀投手に贈られるサイ・ヤング賞を受賞した。32歳で故障もなく、野球選手として花盛りの時期である。

 バウワー投手が高額報酬を期待できる米国球界を去ったのには訳がある。米国ドジャースに所属していた21年7月にドメスティック・バイオレンス(DV・家庭内暴力)の疑いで女性から告発されたのだ。大リーグ機構は9カ月の入念な調査を経て、最終的に194試合の出場停止処分を課した。処分後もバウワー投手を受け入れる球団は現れず、プレー環境を日本に求めたという経緯である。

 バウワー投手は疑惑を否定している。本稿は、疑惑の真偽に立ち入るものではない。しかし、どうしても気になることがある。日本において彼の疑惑に関する調査報道が殆どなされていないことだ。他紙報道にはなるが、バウワー選手の入団会見に際して疑惑について尋ねたのはAP通信の外国記者一人のみという。

 沖縄県警察によれば、昨年県内のDVの摘発件数は160件と過去最多の件数を記録するなど、DVは県内でも深刻な問題である。

 ジャニー喜多川氏の性加害問題に関し沈黙を続けた日本メディアを突き動かしたのは英国BBCの報道だった。メディアは民主主義の根幹をなす「知る権利」を支える社会の公器である。わが国では、野球のみならず、メディアにおいても「外国人助っ人」が必要なのかと心細くなる。

(白木敦士、琉球大大学院准教授)