<南風>不合格の先


社会
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白木 敦士(琉球大大学院准教授)

「アブラハム・リンカン、マハトマ・ガンジー、バラク・オバマ、ネルソン・マンデラ、フィデル・カストロの共通点は何か」。大学法学部の新入生に向けた定番の質問だ。正解は弁護士資格を有すること。

 先週、司法試験の合格発表があった。合格した学生の努力が報われたことに安堵(あんど)する一方、気になるのは目標に及ばなかった学生の心持ちである。不合格となった受験生のみならず、陰で支え続けたご家族の顔も浮かぶ。つらい経験は、良い法律家になるための必要条件でもある、そうは信じるものの、発表直後のつらい気持ちには届くまい。

 そこで力及ばずの受験生にもう一題。「カマラ・ハリス(現米国副大統領)、ヒラリー・クリントン(元米国国務長官)、ミシェル・オバマ(第44代米国大統領夫人)の共通点は何か」。正解は弁護士資格を有することに加え「全員が司法試験に不合格となった経験があること」。米国の司法試験の合格率は日本と比べて総じて高い。「受かって当然」と思うことなかれ。合格率が高い分、精神的な重圧も大きくなる。彼女らが自身の不合格を知った時の心境は推して知るべし。しかしながら、この出題が「難問」であったように、今、彼女らの不合格経験に目を向ける人など誰もいない。

 もう一つ、本稿で名前を挙げた全ての人物に共通することがある。個々の政治的立場はさておき、彼らが、法の学びを自らの自己実現を超え、困難な状況にある人々のために役立てたいと願い、法律家を志したという事実である。

 場所や時代を問わず法を学ぶことは「特権」に他ならない。そんな幸運に気づけた受験生にこそ、優れた法律家になる素養があると信じたい。沖縄には困難な法律問題が山積する。当地に求められるのは、そんな法律家ではなかろうか。

(白木敦士、琉球大大学院准教授)