<南風>見えないバイアス


社会
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白木 敦士(琉球大大学院准教授)

 男性が裸で扇風機に当たっている。裸のまま談笑している男性もいれば、体重計に乗り、首をかしげる男性もいる。その中で働く女性が一人。なんてことはない、銭湯の男性脱衣場での一コマである。女性は脱衣場の清掃担当者であった。男性浴場の利用者としての個人的経験からすると、男性脱衣場における清掃担当者の性別は圧倒的に女性が多い。読者の半数にはなじみがあり、もう半数にはなじみのない世界であろう。

 ルース・ベイダー・ギンズバーグ、通称RBG。米国で誰もが知る裁判官である。弁護士として多くの性差別事件に取り組み、後に合衆国最高裁の裁判官に任命された。彼女がこの世を去って3年がたった。

 ある講演で「合衆国最高裁の裁判官のうち女性が何人を占めれば良いと思うのか」と問われる。彼女の答えは「9人」。定員は9名である。「全員が女性とは、行き過ぎでは?」とでも言いたげな質問者に、彼女は、いたずら顔で答える。「全員が男性であった時には、その違和感に気づかなかったでしょう」。「男性」と「女性」とを入れ変えて見えると、潜在的なバイアス(偏見)に自覚的になれるという好例である。

 さて冒頭の例で「男性」と「女性」を入れ替えると、どんな世界が見えるか。腰をかがめ床に落ちたタオルを懸命に拾う彼女の姿を見て複雑な気持ちになった。

 人は、自己の主観から逃れることはできない。自身の潜在的バイアスを自覚し、異なる経験を持つ人と交わり、学ぶという過程を経ずして、多様性ある社会の実現は不可能だ。だからこそ、社会の重要な意思決定に関わる人たちは、さまざまな属性で構成されなければならない。合衆国最高裁の裁判官は、9名のうち4名を女性が占めるに至った。日本の最高裁はどうか。定員15名のうち、女性はわずか3名である。

(白木敦士、琉球大大学院准教授)