<南風>正義って


社会
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 1月26日から桜坂劇場で公開が始まった映画「デトロイト」を見た。2時間半の大作だが、あっという間に感じた。間違いなく今年見てほしい一本だ。しかし、その時間を自分の中で消化するのにかなりかかってしまった。

 映画の舞台は1967年のアメリカ、デトロイト。実際に起きたデトロイト暴動を取り上げている。南北戦争を経て黒人が自由と人権を得るが、実際は白人優位、抑圧された差別的な状況は変わっていなかった。フラストレーションが高まる中、無許可で時間外営業をしていた酒場への強制捜査がきっかけで暴動が起きる。

 映画の焦点はモーテルでの白人警官の暴力的な尋問。緊迫した画面からイデオロギー、人権、正義、人間とは何かが突き付けられる。

 観覧後に「アメリカのコザ暴動だ」と言った方がいた。暴動の起こった場所や規模は違えど、問題の根は同じだ。私には今の沖縄とも重なって見えた。

 イラストレーター・ウエズタカシさんの『せいぎってなんだろう』という絵本がある。シンプルな線の絵にほのぼのするが、そこに込められたメッセージは鋭い。絵本にはヒーローと悪者が登場する。ヒーローにも悪者にも信じる正義があることが示される。どちらも自分の信じる正義に従って行動しているのだ。あとがきに「正義は善と子供の頃から思っていた。果たしてそうだろうか。正義の反対は悪なのか」と問いかけがあった。勝てば官軍負ければ賊軍という言葉が浮かぶ。正義の二面性と危うさ。

 映画の締めくくりで、事件当事者のその後が紹介されていた。事件の後、それぞれの良心にしたがって選んだ人生に胸が締めつけられる。

 世界中、いろいろな人がそれぞれの立場で正義を訴えるが、未(いま)だに争いは絶えない。万人にとって正しい正義はどこにあるのだろう。
(諸見里杉子、ナレーター・朗読者)