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「いつもの薬ない」薬剤師ら議論 大災害対応でワークショップ 在宅薬学会 巨大地震・津波想定


「いつもの薬ない」薬剤師ら議論 大災害対応でワークショップ 在宅薬学会 巨大地震・津波想定 岡山県総社市のアイ薬局がつくった移動薬局=2018年7月、同県倉敷市真備町(名倉弘哲岡山大教授提供)
この記事を書いた人 Avatar photo 共同通信

 大震災が都市を直撃すると電気、ガス、水道が止まる。物流が途絶えた被災地は孤立し、食料も医薬品も入らなくなるかもしれない。もし、毎日服用する薬がほとんど残っていなかったらどうしたらいいだろう。誰かに相談できるだろうか。

 今年7月、神戸市での日本在宅薬学会でワークショップが開かれた。

 地震や津波の後は物流が混乱し、被災地で深刻な医薬品不足が生じる恐れがある。医薬品を専門に扱うのは医師や看護師ではなく薬剤師。薬が十分に手に入らない非常時でも、さまざまな工夫をして地域の医療を支えなければならない。

 想定はこうだ。夏のある日、南海トラフ巨大地震の津波が大阪湾沿岸を襲った。物流が途絶えた街の小学校に数百人が避難するが、医薬品がない。県薬剤師会のチームが出動すると、タイミング良く、大型車に薬を積んだ移動薬局が隣県から来てくれた―。

 ベテラン薬剤師ら約60人が9班に分かれ、非常時の対応を真剣に議論している。症例は「65歳の1型糖尿病男性、インスリン注射が必要」「84歳の認知症女性、夜間に徘徊(はいかい)する」「自宅で緩和ケアの肺がんの70歳男性、褥瘡(じょくそう)(床擦れ)がある」などだ。

リスク

 糖尿病の男性は、血糖の測定器もインスリンもお薬手帳も津波で失った。業者から薬が届くまであと3日はかかる。

 検討した班は「かなりリスクが高い」と指摘。インスリンの代わりとして移動薬局にある血糖値を下げる薬を使うことができるが、脱水を起こしやすいリスクに注意だ。

 認知症の女性は1人暮らしでデイケアにも通う生活だった。毎朝、抗認知症薬を飲んでいた。地震のショックで心が不安定となり、夜に避難所の中を歩き回るようになってしまった。

 班での検討結果は「薬は緊急性がないので飲まずに様子を見る」。日中の活動を増やすため用事を頼んだり、子どもと遊んでもらったりする。睡眠のための精神安定剤は当面使わず、スタッフが寄り添って様子を見る。

 肺がんの男性は津波で自宅が浸水した。末期がんのためほぼ動けず、寝たきりの状態。痛み止めの医療用麻薬を含むテープを用いている。

 テープは残り2日分。移動薬局は麻薬を扱わないので、処方してくれる医師や調剤してくれる薬局を探す。使用済みの薬は台紙に貼って保存するよう妻に依頼することにした。

期待

 ワークショップの座長を務めた名倉弘哲岡山大教授(救急災害薬学)によると、避難所では感染症対策のためトイレなどの消毒で、薬剤師による調製が必要な薬品を用いる。製品によって濃度が違い、希釈の仕方など扱いが難しい。また、避難所ではおにぎりや菓子パンなどに食事が偏るほか、水分不足になりがちといった食事面の問題も大きいと指摘する。

名倉弘哲 岡山大教授

 「薬だけではなく栄養面、生活環境面といった災害薬事に関する部分で薬剤師に大きな期待がかけられている」

(共同通信)