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<視標>「能登半島地震」 福和伸夫(名古屋大名誉教授) 古い住宅 耐震補強急げ 大地震の危機感、共有を


<視標>「能登半島地震」 福和伸夫(名古屋大名誉教授) 古い住宅 耐震補強急げ 大地震の危機感、共有を  福和 伸夫(名古屋大名誉教授)
この記事を書いた人 Avatar photo 共同通信社

 石川県の能登半島では2020年12月ごろから地震活動が活発化し、群発地震が起きていた。私も委員を務める石川県防災会議の震災対策部会では22年9月から被害想定の抜本的な見直しを始めている。

 能登半島にある断層が動くことによる大地震のリスクが高まっているとの認識は専門家の間にはあった。一方、群発地震が大地震につながる事例は多くないとの見方もあった。今にして思えば、もっと強く警鐘を鳴らすべきだった。

 大地震の可能性があるとの危機感を県と地元の市町村、住民との間で共有できていれば、古い建物の耐震補強や家具固定、集落の孤立に備えた備蓄にもっと取り組めたはずだ。それによって被害を少しでも軽減できたのではないか。

 人口の減少や高齢化が進む地域に共通するのは、耐震性が不十分な古い建物に多くの高齢者らが暮らすことだ。住宅の耐震補強を進めるとしても、住人の個人負担がネックとなって踏み出せないという話もよく聞く。被災地では耐震化を進めるにしても工事業者がいない問題もあった。

 大規模な火災が起きた輪島市の名所「輪島朝市」やその周辺では、古い街並みが観光に役立っていた。被害の広がりを見れば、災害には弱かったとも言える。結果論だが、こういう場所を観光地として活用するのであれば、行政がもっと建物の耐震改修や防火対策に力を入れておくべきだ。

 建物全体の改修は予算的に難しいとしても、家の中で一番長い時間を過ごす寝室や居間に耐震性の高い箱型の個室「耐震シェルター」を設置したり、寝床の上をフレームで覆う「防災ベッド」を置いたりする工夫はできるはずだ。

 一つの部屋だけでも強くすれば、建物が損傷しても命が助かり、自分で初期消火ができる。これらの方法は本人負担も少なく済む。行政がその気になれば、負担をゼロにすることも可能だ。この地震の教訓として簡易な耐震補強の普及にもっと力を入れてほしい。

 携帯電話が通じなくなった地域も多い。強い揺れで土砂崩れや津波が起きて道路が使えなくなり集落が孤立するのは東日本大震災でも経験した。

 孤立しても1週間は過ごせるように家庭や集落ごと食料、水、燃料を備蓄しておきたい。被災地からはガソリン不足の声も聞かれる。過疎化に伴って全国で多くのガソリンスタンドが廃業している。災害への備えの面からも過疎地にあるスタンドの維持策を考えたい。

 地震は夕方近くに起きたため、夜が明けなければ被害の全容が把握できなかった。夜間にヘリコプターを飛ばすのは危険が伴うので、情報収集のためドローンの活用も今後は検討すべきだろう。

 高齢社会の中で住民同士が助け合う「共助」の力が落ちている。大災害では行政による「公助」には限界がある。

 能登が直面していることは、南海トラフ巨大地震でも必ず繰り返される。被災地への救援や復興への支援を通じて多くの教訓を学び取り、地域の防災力をできるだけ高め次の備えにしたい。

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 ふくわ・のぶお 1957年名古屋市生まれ。名古屋大大学院修了。大手ゼネコンを経て91年から名古屋大。2012年から21年まで減災連携研究センター長を務めた。

(共同通信)