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災害時の医療機関 病院も無傷でいられない 人数不足、思い切って業務減を


災害時の医療機関 病院も無傷でいられない 人数不足、思い切って業務減を
この記事を書いた人 Avatar photo 共同通信

 日本ではいつどこで地震に襲われてもおかしくはない。都市を直撃すれば建物が崩れて火災が起こり、多くの死者や負傷者が生じる。頼みの綱の病院も無傷ではいられない。病院の災害対応に詳しい東京都立広尾病院(渋谷区)の中島康・減災対策支援センター部長によれば、病院がちゃんと機能するとは期待しない方がいい。人数が足りず、元々いる入院患者への対応だけで精いっぱいかもしれないからだ。

 地震で負傷した人が次々と押し寄せれば大混乱となり、病院全体が機能停止しかねない。中島さんは「不確実な想定に立つ綿密な計画に基づいて訓練をする病院が多いが、疑問。災害時は思い切って業務を減らし、非常手段もためらわず繰り出すべきです」と訴える。

夜間や早朝

 中島さんは、東京の災害医療の重要拠点である広尾病院で約20年前から災害派遣医療チーム(DMAT)に携わり中国・四川大地震(2008年)やニュージーランド地震(11年)、東日本大震災(11年)で活躍した。

中島康・減災対策支援センター部長
中島康・減災対策支援センター部長

 そんな実体験から病院の災害時対応を定める「事業継続計画」(BCP)を見直すと、数々の不備が見えてきたという。

 例えば、地震が夜間や早朝、土日に起きたら病院職員は何人いるのか。

 「病院の人員配置は年間の4分の3は手薄です。東日本大震災が起きたのは午後の早くで病院に人はいました。これがもし深夜で、仮に当直の2人だけだったらどうするのかを決めておく必要があります」(中島さん)

20キロ想定

 かつてのBCPはこうだ。地震でも病院は無傷でスタッフも歩いて徐々に集まり、やって来る負傷者にも何とか対応できるようになる。20キロ離れた自宅から駆けつける職員も想定していた。

 だが広尾病院から直線距離で20キロといえば横浜市辺り。震災直後、そんな長距離を迅速に歩いて来られるはずもない。

 もっと厳しい状況ではどうなるのか。大地震発生は夜中で応援はなし。当直態勢のまま物資も情報も不十分だが、応援が来るまでどうしのぐかを中島さんたちは考えた。

手伝い

 震災後すぐ駆けつけるのは6キロ以内に住む職員で、遠くの職員は最寄りの病院の手伝いに。代わりに他の都立病院の職員が近くに住んでいたら応援に来てもらう。

 電気、ガス、水道が止まり、トイレは使用禁止。簡易トイレや非常食を準備して最低限の感染対策を整える。病室に空きがないので非常用ベッドを出してこなければならない。仕事は山積みだ。治療以外の業務は誰かに手伝ってもらう方がいい。元気な被災者や入院患者に一部をお願いするのも「禁じ手」ではない。

 応援が来るまで不眠不休では身が持たないので、職員が交代で休憩を取る想定も重要だ。

 中島さんは「災害時も病院が機能を保つには、市民の協力も欠かせない」と指摘する。住宅を耐震化し部屋を整理整頓しておけば、家具類の転倒などが抑えられて負傷者を減らせるという。

(共同通信)