2023年の合計特殊出生率が過去最低の1.20に落ち込んだ。第2次ベビーブーム世代以降の30代を中心に、高齢になる前の「駆け込み出産」などで持ちこたえてきたが、ついに「底割れ」した形だ。岸田文雄首相が「異次元の少子化対策」を打ち出してから約1年半。回復の兆しが見えない中、社会全体で子育て支援の機運を高められるかどうかが鍵になる。
■子宝のまち
人口約9400人の鹿児島県徳之島町。厚生労働省が今年4月に公表した18~22年の市区町村別出生率は全国トップの2・25で、町役場には「子宝のまち」の垂れ幕が飾られている。
「スーパーに行くと、知らない人でも声をかけてくれて、赤ちゃんを抱っこしてくれる」。4人の子どもを育てる看護師の白山さくらさん(30)は弾んだ声で話す。
2人目の妊娠時は千葉県に住んでいた。自宅近くの認可保育所に落選し、職場に近い託児所まで第1子をベビーカーに乗せて満員電車に。親や友人も頼れず「もう限界」と、生まれ育った離島に夫と戻ることを決めた。「もともと子どもを4人欲しかった」。願いがかない、11月に育児休業から職場復帰する。
町には白山さんのような多子世帯が珍しくない。20年度に始まった「祝い金」(子どもの数に応じ10万~50万円)は高岡秀規町長(64)が役場で「町が支えます」と手渡しする。今後はUターンにも力を入れ、住まいや仕事確保を通じ、子育てを後押しする考えだ。
ただ徳之島町のようなケースはまれだ。地方から若い世代が流入する都市部では出生率が低く、東京都は0・99と「1」を下回った。結婚、出産観の変化、子育て環境の厳しさなどが影響しているとみられる。
■不戦敗
日本の出生率は1989年に出生数が少ない「ひのえうま」(66年)を下回り「1.57ショック」と呼ばれた。政府は少子化対策に本腰を入れ、94年に保育所整備を盛り込んだ「エンゼルプラン」を策定。安倍政権では、若い世代が希望通りの数の子どもを持てる「希望出生率1.8」を目標に掲げ、幼児教育・保育の無償化を実施した。
一方、出生率は2005年に1.26まで低下。その後多少持ち直したものの、新型コロナウイルス禍での産み控えや景気低迷もあり、下落に歯止めがかかっていない。
政府関係者は過去の取り組みを「不戦敗の歴史」と振り返る。第2次ベビーブーム世代の出産による「第3次ブーム」が訪れるとの甘い見通しから、待機児童解消など対症療法にとどまった。「多様な施策で一気に遅れを取り戻さないといけない」と焦りを見せる。
■高度な支え合い
子ども政策と対照的なのは00年に始まった介護保険制度だ。それまで主に女性が担っていた介護を社会全体で支えるため、保険料などを財源にサービスを実施している。
岸田首相は昨年の年頭記者会見で「異次元の少子化対策」を表明。児童手当や育休給付の拡充などを柱とし、財源となる支援金制度の創設を盛り込んだ少子化対策関連法が今月5日に成立した。
しかし支援金を巡っては世論の反発も。政府関係者は「誰もが高齢者になる介護とは違い、子どもがいない人の理解も必要な『高度な支え合い』」と強調する。
子育て政策に詳しい柴田悠京大大学院教授(社会学)は、今後も出生率低下が続くと予想。公的な保育サービスやNPOによる取り組みを充実させるため「国が財政面で後押しすべきだ」と指摘する。
(共同通信)