欧州連合(EU)首脳会議でウクライナの加盟交渉入りが決まった。ロシア寄りでEUと対立し「問題児」(英BBC放送)とされたオルバン・ハンガリー首相が反対していたが、決定前に協議の場を退席。驚きの棄権でEUは薄氷の合意にこぎ着けた。ウクライナは安堵(あんど)に包まれたが、今後も手続きが待ち受け、加盟実現までのハードルは依然として極めて高い。
孤立
「ウクライナの人々にとって希望の兆しだ」。ミシェルEU大統領が14日夜、X(旧ツイッター)で交渉入りを発表すると、記者団から「速報だ」と興奮の声が上がった。交渉入りには「全会一致」の同意が必要で、オルバン氏は会議前、記者団に反対を表明。協議は翌日までもつれ込むとの臆測が広がっていた。
「法の支配」の原則やLGBTなど性的少数者への対応を巡り、リベラル色の強いEUと対立する強権派オルバン氏。共闘相手だったポーランドは今月、8年ぶりの政権交代で反EUから親EUへ回帰し、オルバン氏の孤立が際立っていた。
退席
オルバン氏は決定後、フェイスブックに「26カ国がそれほど強く望んでいるのであれば、そうすればいい」と投稿し、最後まで反対しなかった理由を説明した。ドイツメディアによると、同国のショルツ首相がオルバン氏に「コーヒーを飲みに行ったらどうか」と退席を勧めたという。
EUはオルバン氏の強権化策などを理由にハンガリー向け補助金を一部凍結してきたが、EU欧州委員会が首脳会議前日の13日、凍結を一部解除すると突然発表した。懐柔策とみられ、軟化と関係がありそうだ。
道のり
「歴史的な日だ」(クレバ外相)「全てのウクライナ人の強い意志のおかげだ」(ステファニシナ副首相)。ウクライナ政府高官は今回の決定に胸をなで下ろした。
ゼレンスキー政権は苦しい立場に追い込まれている。戦場でロシア軍は防御を固め、領土奪還は期待通りに進まない。頼みの綱の米国は与野党対立のあおりでウクライナ軍事支援予算の議会承認が遅れ、ゼレンスキー氏は訪米して直接説得したものの不発に終わった。
このタイミングで加盟交渉入りが遅れれば、米国と共に支援の両輪となる欧州に「見捨てられた」との印象が国際社会に広がり、政権は一層の苦境に陥る恐れがあった。
ただEU加盟には人権擁護や法の支配といった「政治的基準」、市場経済の成熟など「経済的基準」を満たす必要があり、交渉は35分野に及ぶ。通常は10年ほどかかる長い道のりで、ウクライナが「スピード加盟」を果たせるかどうか不透明だ。
(ブリュッセル、キーウ共同=田中寛、小玉原一郎)