【読谷】「戦死した父を、さとうきび畑の歌碑の前でしのびたい」。愛知県在住の村中征也さん(84)は、戦争で亡くなった父への思いを歌う曲「さとうきび畑」の歌詞に父の姿を重ね、そう願った。新聞にその思いを投稿したところ、偶然にも歌碑建設に携わった関係者の目にとまり、関係者らの協力で11月、村中さんは読谷村にある歌碑の前に立つことができた。
三重県出身の村中さんが5歳だった1945年3月、徴兵された父がフィリピンで戦死した。父の最期は見ていないが「さとうきび畑」の「あの日鉄の雨にうたれ 父は死んでいった」という歌詞に姿を重ねる。「読谷村の海岸に立ち、父をしのびたい。全ての戦没者に祈りをささげ、平和を願いたい」
その思いをつづった村中さんの投稿が9月10日付の朝日新聞に掲載された。記事はさとうきび畑の歌碑建設に携わった西江重信さん=浦添市=の目にとまった。「早く戦争が終わっていれば多くの命が助かった」という村中さんの思いに共感した。新聞社を通じて村中さんとつながり、関係者との集いを提案した。
11月29日、村高志保にある歌碑の前に、関係者ら6人が集まり、村中さんを出迎えた。歌碑建立実行委員会の副会長だった小平武さんは「歌碑が命の尊さを伝える場所になっている」と地域を越えて、歌碑の存在や思いが伝わっていると喜んだ。
村中さんは歌碑の前で、習っているというオカリナで「さとうきび畑」を演奏した。演奏を終え「悲しみが和らいだ。心が満たされた」とすがすがしい表情を見せた。「とても温かい集まりだ。感謝しかない」と笑顔を見せた。
(金盛文香)