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「ちゃーんねーさー(大丈夫だよ)」 穏やかに牛と語る姿に引かれ <道しるべ・佐久川政秀さん闘牛と共に>上


「ちゃーんねーさー(大丈夫だよ)」 穏やかに牛と語る姿に引かれ <道しるべ・佐久川政秀さん闘牛と共に>上 新垣フミ子さんが撮影した、くば笠をかぶり愛牛の古堅モータース☆黄龍と見つめ合う故佐久川政秀さん(提供)
この記事を書いた人 Avatar photo 新垣 若菜

 闘牛人気の立役者で、数々のチャンピオン牛を育てた佐久川政秀さん(古堅闘牛組合長)が16日、死去した。牛飼いたちの「道しるべ」として歩んできた闘牛人生を、関係者たちが振り返る。

 レンズ越しに見えたのは、常に牛を思い、牛に寄り添う姿だった。「牛に対してとにかく誠実で真面目で、そこにまた皆が引かれるのだろうね」。闘牛写真家の新垣フミ子さん(80)=南風原町=は、佐久川政秀さんのことをそう振り返る。魅せられた一人として、家にはこれまでに撮影してきた佐久川さん、そして彼と共に闘ってきた愛牛たちの写真が多く残る。

 うるま市出身の新垣さんが闘牛を撮り始めたのは約20年前。大会では最前列でカメラを構え、気迫あふれる闘牛、横で気合いを入れる勢子(せこ)たちを追った。その中で、出会ったのが佐久川さんと二代目古堅モータース号だった。「多くの勢子は声をひたすら張る中で、穏やかに牛と語り合っている様子に目を奪われたわけ」

 そこから付き合いが始まり、牛舎にも通う仲に。育てる牛が次々と強豪牛になっていくことがあまりにも不思議で、一度尋ねたことがある。すると返ってきた答えは「なんで簡単さ、牛の気持ちになったらいいわけよ」。育てられた牛たちの穏やかな表情も、その答えを物語っているようだった。

 強い牛がさらに強くなるのはもちろん、闘争心を失いかけていた牛を強豪牛に育て上げるのも間近で見た。「みんなが認める、とにかく良い育て親だわけ」。大会で自身の牛が勝利した後に、互いに顔を見合って喜びを分かち合う姿も好きだった。

佐久川政秀さんを撮り続けた闘牛写真家の新垣フミ子さん

 2020年に、佐久川さんが作成した闘牛の日めくりカレンダー「道しるべ」の写真を多く担当した。表紙は、中量級王座に輝いた古堅モータース☆黄龍と汗を流しながら散歩を楽しむ佐久川さんが飾る。

 開いた1ページ目にある言葉は「牛は家族の一員である」。続いて「家族と牛はどちらが大事と言われたら、どちらも大事と答えるが 家の行事は闘牛大会の予定の次」。ほかには「牛主は、自分は食べなくても牛には食べさせる」「牛はたたいたりしてはいけない」など、闘牛をこよなく愛す佐久川さんらしさがあふれる。

 勢子をする勇ましさ、優勝旗を掲げ愛牛と勝利を喜ぶ様子、やさしく牛たちを世話する日常―。佐久川さんを収めたたくさんの作品を見つめながら「今は天国で何しているのかね。野球で言えば、名監督なのか名コーチになるのかな、どちらにしてもまた闘牛たちと顔を見合っておしゃべりしているんだはずね」とさびしそうに語る新垣さん。大会で、牛たちの背中をいとおしそうになでながら「ちゃーんねーさー、ちゃーんねーさー(大丈夫だよ)」と繰り返す佐久川さんの姿が忘れられない。

 (新垣若菜)