【東京】沖縄を舞台に主人公の未名子と宮古馬との不思議な関係を描く「首里の馬」で芥川賞を受賞した高山羽根子さんが、28日までに琉球新報のインタビューに応じた。舞台に選んだ沖縄について「この土地にはすごい意味があると感じた。短い歴史の間に、自分たちの力ではどうにもならない困難があり、それが積み重なっているイメージを受けた。そこに立って見えてくるものを書き留めたかった」と印象を語った。
プロ野球好きで春季キャンプなどで何度か来県してきた。富山県出身で東京都在住。沖縄に直接の縁はない。作品を書く上で「沖縄の外から見るのではなく、外にいる者が中に立って周りを見渡す視座を大事にしようと思った」と振り返る。
作中には民間の資料館が重要なシーンの一つとして登場する。そこを手伝う未名子は島の全ての情報を記録したいと願う。「燃える前の首里城もいろいろな人の情報を基にしてできた。同じ場所にあっても、それぞれの時代がその場で層になり重なっている。それを補強するのが情報。情報がないとあったことも分からない」と主人公に託した思いを説明する。
戦後75年の今、戦争体験者の証言を収集する機会も限られてくる。「いろいろな視点があって立体物ができる。数字や事実も大事だが、曖昧な記憶もそれ自体大事な情報。必要か必要でないかを選ぶのは、その時代の記録者ではない。だからできるだけ書き留めておくことが必要だ」と記録する意義を強調した。
実際の社会でも情報がきちんと記録されていない事態も起きている。「情報を廃棄したり、見えなくしたりすることに対して、見ている、記録していることはカウンター(反撃)になり得る。だから記録される、資料として残すことが怖いのだと思う」と思いを語った。
「首里の馬」は県内の書店でも発売されている。