「サックスを吹いていると喜びを感じる。若い頃より今のほうが充実感があるよ」と語るのは今年86歳の松川光吉さん=沖縄市。高校時代にブラスバンド部で楽器に出合ったことがきっかけで、今もサックスの演奏を続ける。コロナ禍で減っていた演奏の機会が徐々に戻りつつあり、楽しみながら磨かれた音色を響かせている。
高校卒業後は米軍基地内でジャズバンドマンとして活動。その後、中の町歓楽街のジャズバーでバンドマスターとして演奏の日々を送った。
1972年に外国人客の減少などもありバンドを辞めて会社員に。「時代もあったと思うが、バンドで食っていくには大変だった」と振り返る。
楽器を手放して29年。通りの質屋でたまたまサックスを目にしたことが転機となった。「急激に欲しいと思った。音の響きが頭をよぎったんだよ」。すぐさま購入した。
楽器と縁のない間には2度の大病を体験した。患った脳梗塞は完治したが、指の感覚がつかめず練習の日々。「焦りも不安もあった。でも好きだから練習は一日も欠かさなかった」という。
その後、沖縄市内のジャズビッグバンドで活躍。松川さんのサックス演奏は地元・山里自治会の生年祝いや新年会など祝い事には欠かせない演目だったが、コロナ禍で3年間、開かれていない。「行事ができないのは寂しいが、いつ呼ばれてもOKだよ」と胸を張る。
10月から仲間たちが集まり、胡屋の店「ミュージックランドM」で本格的な練習が始まった。「待ちに待った練習だ。若返るよ」と笑みがこぼれる。最年長だが年齢を感じさせない。唇と指先で奏でる音は空間に満ち、そこにいる者たちの胸の奥に響く。
(山川宗司通信員)