<書評>『琉球の祭祀植物の研究』 「植物民俗学」の基礎になる書


<書評>『琉球の祭祀植物の研究』 「植物民俗学」の基礎になる書 『琉球の祭祀植物の研究』新里孝和著 むぎ社・3300円
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 神を祭る祭祀(さいし)でカミンチュなどが身にまとう植物にはどのような意味があるのだろうか。超自然的存在である神々に対して人間が働きかけを行う点に祭祀の本質があるが、自然の側に位置する植物を通して祭祀にアプローチする本書は、著者が述べている通り、琉球の祭祀に見られる人間・自然・神々の三者の関係のありさまを探求する試みだといえる。探求の過程で、長年にわたり森林・植物学の立場から植物に接してきた著者の知見が随所に生かされているのは、本書の特徴のひとつになっている。

 考察の対象になっている祭祀は、国頭村安田と奥、本部町具志堅、浜比嘉島のシヌグと、伊平屋村田名、古宇利島、塩屋湾のウンジャミなどで、さらに久高島のイザイホーも取り上げられている。関連する文献情報および現地での聞き取り調査資料に加えて写真が数多く掲載されているため、本書は祭祀植物に関する貴重な資料集としての価値を有し、かつ、これほど数多くの祭祀を対象にしての祭祀植物に焦点を当てた研究はこれまでになく、その点でもオリジナリティーの高い研究と言えるだろう。ヤラザ森城の落成に関する碑文(1554年)に見えるダシキヤクギ・アザカガネの用語に指目し、その用語が指す実体に関して著者独自の議論を展開していることも評価したい。

 久高島のイザイホーなどに登場するアザカについての議論は、評者の関心を引いた論点のひとつである。アザカの語源は十字路を意味するアジマーにも通じる「交差」であり、アザカと呼ばれる植物はその枝葉が交差(十字対生)していることにちなむとする多和田真淳の説を踏まえて、そのアザカとススキなどの葉先を十字形に結んだサン・ゲーンとの関連や、さらには、その延長線上で世界的には卍と十字の図像が生命や霊的存在などの象徴として用いられる点にも注意を喚起している。

 著者は後継の研究者に新たな「植物民俗学」への参画を呼びかけているが、本書は将来の植物民俗学構築のための揺るぎのない基礎になることが大いに期待できる。

 (赤嶺政信・琉球大名誉教授)


 しんざと・たかかず 1945年本部町生まれ、元琉球大教授。著書に「図説実用樹木学」(共著)、「亜熱帯沖縄の木や森や里山」など。