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台湾と沖縄を舞台にした漫画「隙間」で注目 漫画家・高妍さんインタビュー「歴史的な痛みも伝えたい」 20日に那覇でサイン会


台湾と沖縄を舞台にした漫画「隙間」で注目 漫画家・高妍さんインタビュー「歴史的な痛みも伝えたい」 20日に那覇でサイン会 「隙間」第3話の首里の風景を描いたページ (C)高妍/KADOKAWA
この記事を書いた人 Avatar photo 伊佐 尚記

 新進気鋭の台湾出身漫画家、高妍(ガオイェン)さんが月刊コミックビーム(KADOKAWA)で沖縄と台湾を舞台にした作品「隙間」を連載している。自身の沖縄留学体験を基に、主人公楊洋(ヤンヤン)の失恋や家族への複雑な思いを描き、台湾の歴史や政治についても触れている。琉球新報のインタビューに応じた高さんは「台湾と沖縄の似ているところ、歴史的な痛みも伝えたい。政治に無関心だった人も興味を持つようになればうれしい」と語った。 (聞き手 伊佐尚記)

「隙間」にも登場する龍潭にたたずむ高妍さん=那覇市首里

 ―日本の漫画との出合いは。

 「台湾でも日本の有名なアニメや漫画は翻訳、放送されていて小さい頃から見ていた。『鉄腕アトム』など手塚治虫さんの作品が好きだった。高校生の時に『月刊漫画ガロ』などのサブカルチャー漫画に興味を持ったが、翻訳版がないので日本語を勉強するようになった」

 ―沖縄留学の経緯は。

 「当時は台湾芸術大学に通っていて、2018年の夏から1年間、沖縄県立芸術大学の絵画専攻に交換留学した。日本の大学院に進学したかったので日本に慣れておこうと思った。沖縄と台湾は近いのですぐに慣れ、クラスメイトも優しく楽しかった」

 「留学時に近藤ようこさんや岡崎京子さんの漫画を読んで衝撃を受けた。当時、SNSに投稿したイラストが注目されてイラストレーターとして活動するようになっていたけど、漫画家になりたいという気持ちが強くなった。留学後、『間隙・すきま』という短編を自費出版した。SNSのイラストや『間隙―』を見たコミックビームの編集長さんが『ぜひ描いてほしい』と言ってくれて、『緑の歌』という連載でデビューした」

 ―沖縄に来て台湾との共通点に気付いたそうだが。

 「台湾も沖縄も歴史的にいろんな圧迫を受け、自分たちの文化がなくなってきている。中国国民党が台湾に来た時、国の言葉を変えて、台湾の人たちは台湾語を話すことを禁止された。沖縄でも琉球語を話したら恥ずかしい、学校で話したら罰を受けるという時代があった。琉球語が話せる人は少なくなっている。台湾語も特に台湾北部ではしゃべれない若者がたくさんいる。けど最近は台湾語を話すことに誇りを持つ人が増えている。私が高校生の時に台湾でひまわり学生運動(台湾と中国間の投資協定を巡り学生らが立法院を占拠するなどした社会運動)があり、多くの若者が政治に関心を持つきっかけになった。その頃から自分たちの文化に自信を持つようになったと思う」

 ―連載中の「隙間」では国民投票など台湾の歴史、政治について描いている。

 「留学中の18年11月に台湾で国民投票があった。国民投票のテーマはたくさんあったけど、若者が大切にしていたテーマの一つは同性婚(の民法改正による合法化の賛否)だった。沖縄にいたので投票できなかったけど、SNSで発信していた。投票で自分たちの未来は変わると信じている。(国民投票では同性婚反対が上回ったが、特別法により)台湾で同性婚が合法になったことはアジア全体の未来に影響すると思う。他の国でも同性婚が認められたらいい。政治は一つの国の話にとどまらない」

 「この作品では台湾の政治的な話や、台湾と沖縄の似ているところ、歴史的な痛みも伝えたい。教科書みたいな物語ではなく、若者から見た世界を描く中で伝えたい。政治に無関心だった人も自然と生活の一部みたいに興味を持つようになればうれしい」

 ―沖縄の政治にも触れるのか。

 「主に台湾の話になると思うけど、留学していた時に(名護市辺野古の埋め立ての賛否を問う)県民投票もあった。外国人として見た沖縄の事情も書きたい。私と同じように台湾で生まれ育った女性が沖縄に留学して、沖縄で見た景色とか出会った人たちとか、どんな気持ちで生きてきて、どう生きていくのかということを描いてみたい」

 ―絵の色彩に懐かしさがある。漫画の間(ま)などは映画を見ているようにも感じる。

 「イラストはよく風が感じられるとか懐かしいとか言われる。無意識に好きな色を使い、描きたいものを描いているだけなので、そう言われるとうれしい。漫画の場合は、映画を見ているような気持ちで読んでもらえたらと思って描いている。読んでいる人が登場人物に気持ちを重ね、物語の中に入り込めるようにしている。自分だけにしか描けない作品を描きたい」

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 がお・いぇん 1996年生まれ。台湾・台北出身。漫画家・イラストレーター。デビュー作『緑の歌―収集群風―』が「THE BEST MANGA 2023 このマンガを読め!」第2位。村上春樹著「猫を棄てる 父親について語るとき」の装画と挿絵も手がけた。


21年に鮮烈デビュー 松本隆さん、村上春樹さんら評価 伝説のバンド「はっぴいえんど」も題材に

 高妍(ガオイェン)さんは2021年から連載した「緑の歌―収集群風―」で鮮烈なデビューを飾った。伝説的なバンド「はっぴいえんど」とそのメンバーだった細野晴臣さんの音楽、村上春樹さんの小説が好きな台湾の少女の恋と成長を描いている。

 基になった短編は18年初めに自費出版で世に出した。17年に高さんが東京ではっぴいえんどのレコードを買った時や細野さんが台湾でコンサートを開いた時の感動などを題材にしている。

 この短編は、はっぴいえんどの元メンバーで作詞家の松本隆さんの目にとまった。それを機に高さんは19年に細野さんと対面を果たし、細野さんのドキュメンタリー映画にも出演した。同年に村上さんの著書の装画・挿絵を依頼され、本人も「信じられないようなこと」が次々と起こった。

 「緑の歌」を書いた後、長編にするというアイデアを温め続けていた高さん。コミックビームからのオファーを受けて「緑の歌」の連載を始め、商業誌デビューした。22年に単行本化され、松本さんと村上さんが帯にメッセージを寄せた。

 高さんが本作で描きたかったテーマは「昔大好きだった人のこともいつかはあまり思い出さなくなる。でもそれは本当に忘れたわけではなく、自分の中で一緒に成長している。悲しいことではない」ということ。「今しか書けない作品。デビュー作としてぴったりだったと思う」


 高妍(ガオイェン)さんのサイン会が20日、ジュンク堂書店那覇店で開かれる。午後2時、2時40分、3時20分の3部制。参加費は2240円で、コミックビーム2月号と特別描き下ろしイラスト色紙を参加者に渡す。申し込みのサイトはhttps://online.maruzenjunkudo.co.jp/products/j70050-240120bからアクセスできる。