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<2023年末回顧・県内>3 短歌 歌壇での活躍目立つ 地域での可視化が課題


<2023年末回顧・県内>3 短歌 歌壇での活躍目立つ 地域での可視化が課題 本紙「琉球歌壇」で「若手・新人作品」を紹介する紙面
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 2023年を振り返ると、平安まだらの短歌研究新人賞受賞と、新城貞夫の逝去が大きなニュースとしてあるように思う。昨年は復帰50周年の喧騒に包まれていた。今年は新しい半世紀に向けたはじまりの年である。その年に平安まだらの短歌研究新人賞受賞があったことを喜びたい。

 平安の受賞作は飄々とした作風ながら、現実の重さを暗示するものであった。受賞後第一作はどうだろう。『短歌研究』8月号掲載の「美しいワゴンR」から2首引く。

 <パチンコ屋さんにファラオのでかい像そこから海はギリ見えるかも>

 <暮らしとは預金口座の満ち引きにリズムをすこし託すものかも>

 1首目は初句二句が「パチンコ屋/さんにファラオの」となっていて、少し読みにくいかもしれない。注目したいのは結句の「かも」である。決して詠嘆ではなく、「かもしれない」の「かも」であるが、この2首の「かも」には単なる推量だけではない高揚感がある。口語はこうした推量に関する高揚感のニュアンスを描くのが得意だ。平安の受賞後第一作は受賞作より自然体で力が抜けていたと思う。決して、重さを出すだけが短歌ではない。

 私事で恐縮だが高良は今年、現代短歌社主催のBR賞を得た。これは書評の賞で、書評の対象とした歌集は伊舎堂仁(ひとし)の第二歌集『感電しかけた話』である。沖縄出身者(高良)が沖縄出身者(伊舎堂)の歌集の書評を書き、受賞したということで、県内二紙でも報じられた。

 また、佐藤モニカは今年から現代短歌社賞の選考委員に就任した。沖縄県の歌人が総合誌の新人賞における選考委員を務めるのは初めてのことではないだろうか。佐藤も、伊舎堂も平安も、みな歌壇で活躍しているようだ。

 その歌壇とはなんだろう。辞書を引くと、歌壇とは歌人の社会のことだと書いてある。歌人たちは同人誌や結社誌を発行している。それを文芸ジャーナリズム、いわゆる短歌総合誌が取材したり、原稿依頼を出したりする。対面での会話と、誌面による繋がりが両輪となって、歌壇は形作られている。

 県内に関して言えば、一番大きな文芸ジャーナリズム媒体は新聞である。ここからは沖縄の歌壇が比較的よく見える。琉球新報の日曜の文化面には、梯梧の花短歌会や黄金花表現の会など、ベテラン歌人グループの例会作品が掲載されている。それぞれのグループはそれぞれに例会があり、その様子を紙面で垣間見ることができるのだ。

 また、今年からは不定期であるが、琉球歌壇の一部に「若手・新人作品」が掲載されるようになった。今年を振り返ると2月、4月、9月、10月、11月の掲載で、5人の歌人が紹介されたことになる。ベテランと新人とが紙面に共存しており、バランスがとれているのは読者としてありがたい。印象に残っている歌をいくつか引きたい。

 <大学生たちああ休んでる 街路樹に休符のように凭れかかって>

 2月掲載の當山壮大「教師の笑顔」6首から引いた。「大学生」は5音だが、この歌は初句7音で、二句目のあとに一字空けがあると読むべきだろう。休符にはいくつか種類があるけれど、いちばん人体に近いのは4分休符だ。樹木の堅さと、ぐにゃりとした人体の対比がおもしろい。

 <触れられるたび神様の設計は正しかったと実感できる>

 4月掲載の國吉伶菜「Day before heavy rain」7首から引いた。ノアの方舟の物語をベースにいくつかの神話が混ざっている連作である。冒頭のこの歌が最も手堅い。自分自身の身体を肯定するにあたって、「神様の設計」を経由するあたりは、ここ30年くらいの短歌のトレンドであるニューウェーブの世界観に呼応する部分がある。

 <6月は平和を語る「戦争はうーとーとーが壊れることよね?」>

 9月掲載の知念さゆり「三歳と三歳」7首から引いた。子どもの発言の引用ということを踏まえると、「うーとーとー」は仏壇を意味するものと察せられるが、同時に戦争によって祈りの言葉や、祈る行為そのものが破壊されるイメージも浮かんでくる。

 ところで歌壇はコミュニティーの一種で、コミュニティーは共通の記憶を持つ。私たちが、私たちの共有財として読むべき歌人は誰なのか。もちろんそれは公共圏での議論を通して決められるのだが、私は秋の季評で7月に逝去された新城貞夫を上げさせてもらった。12月に刊行された同人誌「滸(ほとり)」5号では、屋良健一郎が長い屋部公子論を書いている。

 ただし、ここまで挙げてきた事柄は、短歌をはじめてすぐの状況では見えにくいかもしれない。隣に座っている人よりも、携帯端末を通して連絡を取り合う人の方が近く感じられる時代と言われているが、私たちは現実の身体を捨て去ることができない。総合誌上では短歌ブームが既知のものとなっている。沖縄にもそうした動きはあるのだろうか。地域の短歌コミュニティをどのように可視化し、どのように共同体としての意識を立ち上げるかが、今後の課題だろう。

(敬称略)

(高良真実、歌人)


たから・まみ 1997年那覇市生まれ。2015年より作歌開始。早稲田短歌会を経て竹柏会「心の花」所属。22年に第40回現代短歌評論賞受賞。23年第4回BR賞受賞。本紙で「短歌季評」の執筆を担当している。