身近な人の孤独描く 新報短編小説賞 上地さん、次作に意欲


身近な人の孤独描く 新報短編小説賞 上地さん、次作に意欲 第51回琉球新報短編小説賞に決まった上地庸子さん=奈良県(本人提供)
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 第51回琉球新報短編小説賞に選ばれた「寄居虫(やどかり)」は、子どもを亡くした主人公の深い孤独を描いた作品だ。作者の上地庸子(ようこ)さん(35)は、身近な人の体験から着想を得たという。「みんな何でもないような顔をして生きているけど、その裏で苦しみや孤独を抱えている。そのありさまを書きたかった」と語る。

 「寄居虫」は上地さんにとって7作目の小説だ。執筆した当時、人間関係で疲れていたこともあり、人が抱える孤独に目を向けた。「『人間はみんなそうなんだよ』って書くことで、自分を癒やすことにもなった」

 物語の中で印象的なのが死んだ子どもと重なるような存在のオカヤドカリだ。宜野座村出身の上地さんにとって身近な生き物だという。「主人公はわが子の死で現実の手応えがないまま生きている。ヤドカリの来訪は、自分が確かに生きているんだっていう手応えを感じるきっかけになる」

 2019年度に琉球新報短編小説賞の最終選考に残り、20年度におきなわ文学賞小説部門佳作となったが、正賞には至らなかった。「『才能がないのかな』と意気消沈して最近は書けていなかった」と明かす。念願の正賞に「『これからも書き続けていいんだよ』とエールを頂いたような気持ち。次のアイデアも出てきた」と創作に意欲を示した。

 (伊佐尚記)