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<ひと>沖縄の原風景書きたい 琉球新報短編小説賞に選ばれた上地庸子さん


<ひと>沖縄の原風景書きたい 琉球新報短編小説賞に選ばれた上地庸子さん
この記事を書いた人 Avatar photo 琉球新報社

 第51回琉球新報短編小説賞に輝いた。奈良県で暮らすが、「生まれ育った沖縄の原風景を書きたくて小説を書いている。私がものを書く時の源泉です」と言い切る。

 大学生の頃にSNSで文章を書き始め、随筆でおきなわ文学賞県知事賞などを受賞した。小説を書き始めたのは31歳の頃。沖縄で弁護士をしていたが、体調不良や妊娠が重なり、仕事を辞めて奈良にいた夫と暮らすことになった。「妊娠はうれしかったけど、仕事を続けられなくなった挫折感もあった」。その時、随筆を読んだことのある友人から「小説を書いてみたら」と薦められ、挑戦を始めた。

 20代で大城立裕さんや又吉栄喜さん、目取真俊さんらの沖縄文学作品を読んで衝撃を受け、「生きているうちにこんな小説が書けたら」と思っていたことも背中を押した。

 主に沖縄戦や基地を題材に書いてきたが、受賞作の「寄居虫(やどかり)」では誰もが抱える孤独に迫った。舞台は故郷の宜野座村。情景描写にこだわったという。「海だったり風だったり風景描写に登場人物の心情を反映できないかと思った。リゾート的な感じではない、生まれ育った人間から見た沖縄の村を描きたかった」

 沖縄文学のほか、大庭みな子さんや「存在の耐えられない軽さ」で知られるミラン・クンデラさんの小説にも影響を受けてきた。「これまで小説を読むことで救われ、生きる支えになってきた。自分も誰かにそう思ってもらえる小説を書けたらうれしい。沖縄の純文学を生み出していきたい」と力を込めた。35歳。