prime

喜納昌吉さん「ハイサイおじさん」「花」数々多くの名曲を制作 込めた思いとは…<第20回宮良長包音楽賞>


喜納昌吉さん「ハイサイおじさん」「花」数々多くの名曲を制作 込めた思いとは…<第20回宮良長包音楽賞> インタビューに答える喜納昌吉さん=1月25日、那覇市泉崎の琉球新報本社(小川昌宏撮影)
この記事を書いた人 Avatar photo 田中 芳

 第20回宮良長包音楽賞に音楽家の喜納昌吉さん、同特別賞に歌手の夏川りみさんが選ばれた。喜納さんは民謡とポップスを融合した独自の音楽を生み出し、「すべての武器を楽器に」と平和を築く音楽の力を世界に発信してきた。夏川さんは幼い頃から、故郷の石垣や沖縄への思いを伸びやかに歌い続け、国内外に「沖縄の心」を広く響かせてきた。同賞は、郷土が誇る作曲家・宮良長包を顕彰し沖縄音楽の発展と活性化を図る目的で、琉球新報社が創刊110年を記念して創設した。贈呈式を27日午後6時半から那覇市泉崎の琉球新報ホールで開く。会費は無料。一般の参加も可能。それぞれ1~2曲の受賞記念演奏を予定している。問い合わせは琉球新報社統合広告事業局、電話098(865)5255(平日午前10時~午後5時)。


 喜納昌吉さんの父親は、戦後の民謡界をリードした琉球民謡唄者の昌永さん。幼少から沖縄音楽が身近にある環境で育った。

 中学生の頃、昌永さんの稽古場で民謡唄者ら音楽関係者が毎日のように集い、三線の演奏を競い合う姿を見ていた。昌永さんが喜納さんに教えることはなかった。誰もいなくなった部屋で、喜納さんは三線に触れた。「(三線を弾く)『ピーン』というあの音。静寂の中で、音が消えていく世界を僕はずっと楽しんでいた」

 うちなーぐちを使うなと言われ、うちなーぐちが追い出されていった時代。当時の喜納さんには逆に、沖縄の高齢者の言葉が身体に浸透していた。「沖縄の純粋な言葉、うちなーぐちの言霊が僕の中に流れ込んできた感覚があった。これがやっぱり、音楽をたぐりよせたような感じがする」

 代表曲の一つ「ハイサイおじさん」は中学生のころに作った。コザのボウリング場でギターを持ってメロディーを弾くと周囲が喜んだという。「なんで僕が歌うとみんな喜ぶんだろう」。初めての感覚だった。

 大学在学中に「チャンプルーズ」結成。その後、喜納昌永グループで「ハイサイおじさん」をAサインの店などで演奏した。1977年、本土のレコード会社から、「ハイサイおじさん」が全国発売され、大ヒットとなった。

 同年、デビューアルバム「喜納昌吉&チャンプルーズ」をリリースし、音楽界に衝撃を与えた。細野晴臣、久保田麻琴、ライ・クーダーら音楽家を迎えて収録した、セカンドアルバム「BLOOD LINE(ブラッド・ライン)」では、後に大ヒットする「花」を「すべての人の心に花を」のタイトルで収録した。

 「完全に日本の音楽を超えたという確信があった。僕は日本を超えて世界とつながった」

 「花」は数々のアーティストがカバーし、今も歌い継がれる名曲になった。

 平和活動家でもある喜納さんは「すべての武器を楽器に」をモットーとする。1996年7月、アトランタオリンピックの文化イベントにアジア代表ミュージシャンとして出演し、平和のメッセージを発信した。

 喜納さんが、デビューアルバムに収録した「東崎(あがりざち)」は、与那国島を訪れた際に生まれた。トゥングダやクブラバリといった与那国島の歴史にある闇の部分と、島の美しい心を感じたという。「光と闇が一緒に混在しているその不思議さ。岬にぽつんと座っていると、歌が生まれてくる」

 喜納さんは宮良長包音楽との接点について振り返る。長包が作曲した沖縄民謡「なんた浜」は、与那国島の祖納集落に面した浜を題材にしている。「長包が美しさに感動した島が、軍事基地の島になろうとしている。今この時期に僕が音楽賞を受賞するということは、長包から『昌吉、どうにかしてくれ』と言われているようだ」

 喜納さんにとって音楽と政治に境目はない。

 「沖縄が沖縄を思い、戦争をなくそうという思いしかない。沖縄だけの平和はあり得ない。沖縄が平和になるためには、日本もアジアも、そして世界も平和にしなくてはいけない。人類ができなかった奇跡を沖縄から出せる」。圧倒される表情と目力を見せた。

 (田中芳)


 きな・しょうきち 1948年、越来村(現沖縄市)生まれ。父は琉球民謡の歌い手・喜納昌永。大学在学中にバンド「喜納昌吉&チャンプルーズ」を結成。77年にデビューアルバム『喜納昌吉&チャンプルーズ』を発表。90年代の沖縄音楽ブームをリードした。沖縄の文化と魂に根ざした「ウチナーポップ」の牽引(けんいん)者。代表曲に「ハイサイおじさん」「花 すべての人の心に花を」など。


 宮良 長包

沖縄音楽の先駆者 宮良長包

 みやら・ちょうほう(1883~1939) 石垣島出身。教育者、作曲家。沖縄歌謡が市民権を得ていない時代に、標準語に改作した民謡の編曲や、沖縄の情感を歌う歌曲を100曲以上作曲した。沖縄音楽の先駆者といわれる。代表作に「えんどうの花」「なんた浜」「汗水節」など。沖縄の原風景を歌い「長包メロディー」として時代を超えて愛されている。


<選考委員>

森山政和(県音楽教育研究会顧問)
比嘉悦子(民族音楽研究家)
小浜司(島唄解説人)

<これまでの受賞者>

【宮良長包音楽賞】
第1回 普久原恒勇
第2回 中村透
第3回 伊志嶺朝次
第4回 沖縄交響楽団
第5回 泉惠得
第6回 山城功
第7回 嶺井政三
第8回 与世山澄子
第9回 登川誠仁
第10回 富原守哉
第11回 沖縄JAZZ協会
第12回 津波恒徳
第13回 屋比久勲
第14回 知名定男
第15回 翁長剛
第16回 大工哲弘
第17回 備瀬善勝
第18回 佐渡山安信、佐渡山真理
第19回 琉球交響楽団

【宮良長包音楽特別賞】
第1回 BEGIN
第2回 アルベルト城間
第3回 MONGOL800
第4回 下地勇
第5回 白百合クラブ
第6回 新良幸人
第7回 古謝美佐子、佐原一哉
第8回 大島保克
第9回 HY
第10回 ジョージ紫
第11回 きいやま商店
第12回 徳山義広
第13回 沖縄中央混声合唱団
第14回 宮沢和史
第15回 大城美佐子
第16回 Kiroro
第17回 沖縄男声合唱団
第18回 DA PUMP ISSA
第19回 西原高校マーチングバンド部

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

【贈呈式】
 27日午後6時半 琉球新報ホール(会費無料)

【問い合わせ】
 統合広告事業局
 電話098(865)5255
 (平日午前10時~午後5時)