デビュー35周年 後悔のない音楽人生 宮沢和史さん


デビュー35周年 後悔のない音楽人生 宮沢和史さん 1989年にロックバンド「THE BOOM(ザ・ブーム)」のメンバーとしてメジャーデビュー。今年、音楽生活35周年を迎えたシンガー・ソングライターの宮沢和史さん。これまでの出来事を振り返りながら、4月にリリースした記念アルバム『~35~(サンゴー)』について、今後はどのような活動をしていくのかなど思いを語ってもらった=那覇市・琉球新報社 写真・村山望
この記事を書いた人 Avatar photo 饒波 貴子

若手が勝負できる舞台を

「沖縄をきっかけに旅をしながら音楽を作ってきました」と語る宮沢和史さん。現在も沖縄民謡の伝承につながる取り組みに力を入れ、音楽家との交流も大切にしている。35 周年の節目に発表した『~35~』は、長く付き合うミュージシャンから県内の若手バンドら音楽仲間と共作して作り上げたアルバムだ。宮沢さんの「今」を聞いた。

THE BOOMデビュー当時のヒット曲「星のラブレター」は岸谷香さん(元プリンセスプリンセス)が、新曲「遠影」は地元山梨県の後輩・藤巻亮太さん(レミオロメン)が参加するなど音楽仲間をゲストに迎えて制作したアルバム『~35~』は全7曲。

「何をやりたいか考え、1曲ずつ集めた短編集のような作品です。岸谷香さんのバンドメンバーの2人はウチナーンチュで、親近感とオマージュから『星のラブレター』の間奏で『てぃんさぐぬ花』をハーモニカで吹きました」とのこと。

沖縄の未来をテーマに制作した「Drawing it 」は「演奏も若い子がいいと思い、HoRookies(ホルキーズ)にお願いしました。彼らは沖縄音楽界の今後を担うバンドですからね」と、沖縄を思う気持ちがちりばめられている。琉球古典音楽演奏家の親川遥さんが参加した「島唄~琉奏~」は特にそうだろう。

「ブラジル、ロシアはじめ世界各国で歌った『島唄』が旅を終えて、琉球に戻ってきた感覚で録音できました」と語り、31年前に作ったこの曲は琉球の力を借りてできたと改めて感じたそうだ。

忘れられない拍手

「沖縄を知りたくて勉強し、伝統楽器の三線とロックを融合させてみたいという思い。永遠に夕凪に包まれた平和な沖縄を祈り、レクイエムを歌いたいピュアな気持ちで作ったのが『島唄』です。歌い始めたころは批判され、ヤマトンチュという理由で嫌がられるのは仕方ない。長く歌い続けていけば、ウチナーンチュのみなさんと友達になれるはず、と楽しみにしていました。認めてもらえ良い関係になったと感じるようになったのは、20年くらい過ぎたころですね」と宮沢さんはほほ笑む。また、本土と沖縄の音楽界全体に壁があったとも。

「触れてはいけないムードが流れ壁があり、お互いに近付けませんでした。でも90年代に入り喜納昌吉さんが本土のレコード会社からアルバムを出し、ネーネーズがデビューしたのがワールドミュージックブームに重なり沖縄の音楽が話題になったというのが僕の見解です」と語る。「壁を超えて来い」という喜納昌吉さんの言葉に励まされ飛び込んでみると、重かった壁の扉が徐々に開き、見渡すと同じ志を持ったミュージシャンが近くにいて交流が始まったそうだ。面白い時代だったと振り返る。

その後東南アジアや南米など各国の音楽に興味を持ち、作品に取り入れたりライブをしたり、「旅をしながら音楽を作る」独自のスタイルで活動してきた宮沢さん。

「35年、いろいろありました。首のヘルニアでバンドが続けられなくなって解散し、2016年にはソロ活動も無理に。音楽をやめようと思い約2年離れましたが、東日本大震災のチャリティーライブで歌ってほしいと言われて行きました。でもステージに立つのが怖く歌はボロボロ。そんな僕だったのにものすごい拍手をもらったことで、素晴らしい世界にいたと実感しました」

17年春ごろから活動を再開したそうだ。

伝統芸能は宝物

旅をする音楽人生で自分しか見ていないものがたくさんあると語り「みじんも後悔していません」と宮沢さんは断言。

4月21日開催の「島ぜんぶでおーきな祭 第16回沖縄国際映画祭」Laugh&Peace LIVEでフィナーレを飾った宮沢さん(提供写真)
4月21日開催の「島ぜんぶでおーきな祭 第16回沖縄国際映画祭」Laugh&Peace LIVEでフィナーレを飾った宮沢さん(提供写真)

「J-POPの枠にいたら琉球古典音楽家との交流はなかったでしょうし、離島の祭りから声が掛かったら行きたい。やりたいことをやっている今、すごく楽しいです」

今後は沖縄民謡の若手が本気で勝負できる舞台を作り、応援していくそうだ。

「身近にある伝統芸能は宝物だと伝えていきたい。1回音楽をやめた人間なので、感謝しかないんですよ」

これからの宮沢さんにも注目したい。

(饒波貴子)

宮沢和史・音楽生活35周年

記念アルバム『~35~』(サンゴー)

恋をする時 with TRICERATOPS、からたち野道 ~35 ver.~ with 坂本美雨、午前0時の近景ほか全7曲収録

CD+DVD(インタビュー映像など)5000円/CD2750円/よしもとミュージックより発売

コンサート『 君と探してる楽園』

大阪公演:6月1日(土)開場15:00/開演16:00/会場:服部緑地野外音楽堂

問い合わせ:キョードーインフォメーション
TEL 0570-200-888

(2024年5月30日付 週刊レキオ掲載)