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<聴事(チチグトゥ)を求めて 組踊初演300年>115 組踊における話芸(5) 身分の低い者は散文体


<聴事(チチグトゥ)を求めて 組踊初演300年>115 組踊における話芸(5) 身分の低い者は散文体 義臣物語の一場面=2014年、浦添市の国立劇場おきなわ
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 前回まで田里朝直の創作した組踊作品の中から「マルムン」について言及してきた。ここで田里作品と「マルムン」についてまとめておきたい。

 作品に登場する「マルムン」として田里は「万歳敵討」に「道行人」という役を登場させた。これは高平良御鎖を狙う謝名の子兄弟に、高平良御鎖一行が小湾浜にて浜下りをしていることを教える役である。具体的には小湾浜までの道を兄弟に尋ねるのであるが、この「道行人」による兄弟への問いかけがなければ、後段のあだ討ちへと物語が進まない。「道行人」の詞章は散文体ではないが、役どころは物語の前段と後段をつなぐという重要な役割を持つ。また、この「道行人」は作品における重要な情報を語る人物、というもう一つの役割を持っていると考えられる。したがって田里は「マルムン」という役に対して二つの役割を持たせていたと考えられる。

 このような「マルムン」の役割を考えながら田里の作品を見ていくと、「義臣物語」で登場する「夜廻り」は物語の前段と後段をつなげる役割を持っている。しかし、「夜廻り」の詞章には「重要な情報」は含まれない。したがってその詞章は以前に紹介したように散文体で、1人で語る漫談のように笑いを含んだものにしたと考えられる。

 次に「大城崩」に登場する「草切」は物語の前段と後段をつなげる役割ではなく、物語における重要な情報を外間の子とその供に提供する。詞章は散文体であり、「笑い」は含まない。

 そして「北山崩(本部大主)」の「加那筑」は、前段と後段をつなげる役割と重要な情報を伝える両方の役割を担っている。さらに犬とのやりとりで「笑い」を含んでいる。

 田里の組踊創作について、その完成順は明確にできないが、作品における「マルムン」に着目すると、「万歳敵討」「義臣物語」「大城崩」「北山崩」という順番が仮説として立てられるのではないだろうか。このような田里の作品における「マルムン」をみると、先に挙げた役割の他にもう一つ共通しているものがある。それは散文体を話す役の身分である。

 田里の作品における散文体を話す役は「夜廻り」「草切」「加那筑」の三役である。「夜廻り」は組踊の役職(按司・大主・比屋・子・頭)よりも下位の役職といえる。また「草切」は詳細はわからないが、「草を苅る者」という意だと思われる。そして「加那筑」は先に挙げた役職もなく、名は童名と考えられる。したがってこれら三役は組踊の役では下位と位置づけられ、そのうち「草切」「加那筑」の身分は百姓であると考えられる。よって、田里朝直は、組踊のうち士族に相当する役は組踊の唱え(若衆吟・女吟・男吟)をし、身分の低い者は散文を用いるという形式を生み出したということができよう。

(鈴木耕太、県立芸大芸術文化研究所准教授)